KL system

旅行トランクの封印を解く

by 唐草 [2023/07/15]

　まとまった量の荷物を運ぶことになった。運ぶ上で問題なのは重さよりもかさばること。宅配便で送ったら結構な値段になる。荷物を届ける当日には、ぼくも現地へ赴くでの、安く済ませるなら自分で運ぶのが良さそうだ。
　さて、どうやって運ぼうか。鉄道を使うので荷物を詰めたダンボール箱を台車に乗せて宅配業者のように運ぶわけにもいかない。登山用の大きなリュックでもあればよいが、そんなものは持っていない。
　旅行用のキャスター付きトランクはどうだろうか？キャスターがついているので楽に運べそうだ。
　我が家には、海外旅行で活躍する大きな旅行トランクがある。樹脂製のトランクなので、リュックや段ボール箱で運ぶよりも安全だ。
　ただ、気がかりなこともある。
　そのトランクを購入したのは、25年も前。初めての海外旅行のために買ったものだ。約7日間の滞在を経て思ったのはカバンが大きすぎて不便だったということ。だから、それ以降一度も使わずに25年間押入れで眠り続けていた。
　封印とさえ呼びたい四半世紀の眠りを経た今、カバンは使えるのだろうか？割れていたり、塗装がボロボロになっていないだろうか？一抹どころではない、大きな不安が拭えない。
　押し入れの奥から引きずり出したトランクは、妙に重く感じられ中になにかが入っているかのようだった。そして、包んでいたビニール袋を剥がしたとき事件は起きた。
　黒い大量の「なにか」が袋から吹き出してきた。一瞬虫の死骸かと焦ってしまったが、そうではなかった。
　5mm角に満たない黒いそれは、樹脂の破片のようだった。こぼれた大量の破片は、床に小さな砂の山を作っていた。
　この黒いカスは、なんなんだ？カバンのどこから吹き出したんだ？
　想像を超えた事態に頭を抱えてしまう。
　トランク本体は無事に見えた。しかし、底面にあるはずの4つのキャスターが消滅していた。この黒いカスはタイヤだったものの成れの果てのようだ。
　カバン本体は無事かもしれないが、キャスターが崩壊した重いトランクなど使えたものでない。残念ながら旅行カバンで移動作戦は諦めざるを得ないようだ。

• <<前の記事を読む　
• 　次の記事を読む>>