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フィルターの底力

by 唐草 [2023/07/01]



 コーヒーを淹れるのは奥深い。好みの一杯を淹れることさえ容易ではない。コーヒーを淹れるたびにその奥深さを、ある時は良い意味で、別の時は悪い意味で噛みしめることになる。カップを満たすコーヒー越しにカップの底を見ようとするのと同じように、コーヒーを淹れる奥深さを見通すことは難しい。
 コーヒーを淹れるだけなら誰にでもできる。挽いたコーヒー豆にお湯をかけるだけでいい。だが、単純だからこそ些細な違いが大きな味の差につながる。
 コーヒーの味を決める要素はいくつもある。様々な地名を冠した豆が売られていることからも分かるように、産地は味を決める。だが、どこの豆かよりも、どのように焙煎したかのほうが、味を大きく左右する。
 浅煎りならスッキリとした軽い味わいになる。香りの強いアフリカ豆は浅煎りが合う。一方、深煎りにすると苦味が前面に出た強い味になる。エスプレッソのように濃く淹れるのなら、焦げるギリギリまで深煎りにする。
 焙煎した豆をどんな粗さに挽くかも味を左右する。酸味を引き立てたいのか、それとも苦味を際立たせたいのかを挽く粗さで調整できる。
 お湯を注ぐ前に味の半分は決まっているようなものだ。
 ハンドドリップやサイフォンといった淹れる方法。注ぐお湯の温度と速度。そういったことが、最終的な味を決める。名高い豆を使っても、その豆に適した方法で淹れなければ豆の持ち味を引き出せない。
 正直言って、かなり面倒でもある。ぼくのスキルだと、どうしても味が安定しない。バリスタと呼ばれる専門職がいるのも頷ける。
 先日、いつも使っているペーパードリップのフィルターが切れた。それはスーパーで売っている安物。そこで、以前コーヒー好きの知人にもらったメリタの最上級フィルターを使ってみた。
 するとどうだろう。味が全然違った。濃いけれどマイルドに仕上がった。実は、飲む前から普段と違うことは分かっていた。フィルターの中のコーヒーの土手が全然崩れないし、そこから出てくる気泡はいつもより細かった。
 フィルターを変えるだけで、こんなにも味が変わるのか。もう安フィルターには戻れそうにない。