カレンダー

2023/08
  
  
       

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

美味しいストレス

by 唐草 [2023/08/24]



 ゲームを気持ちよくプレーするには適度なストレスが必要だ。一見矛盾しているようだが、これが真理だとぼくは信じている。
 自分が絶対に死なないと分かってボスと戦っても、その勝利は虚しい。ゲームなんてボタンを押すだけだと変な悟りを開いてしまいかねない。また、ダンジョンにひとつの分かれ道もなくまっすぐ進むだけでは、冒険感を味わえない。
 だからといって単純に難しくすれば、それはただのストレスでしか無い。プレー中のドキドキやハラハラよりもクリア後の満足感や達成感が大きくなければ、適度なストレスとは呼べない。この匙加減が難しい。
 ゲームを作っていると自分自身がすべてを理解したプレーヤーになってしまうので、自分にとって歯ごたえのあるものを作ると大抵の場合難しすぎるクソゲーになる。
 ローグライクのダンジョンにアクセントを加える要素に落とし穴やダメージ床といった罠がある。多くのゲームで罠は踏むまで非表示になっていて、不用意に歩く中級者たちを絶望の底に叩き落してきた。上級者は毎歩ごとに罠をチェックするので罠にはかからなくなるが、時間がかかるというジレンマを味わう。
 予定通りの進行を崩す罠は、ダンジョンゲームの重要なスパイス。でも、これまでの罠は辛口過ぎたのではないか。それは満腹感よりも口の痛みだけが残る激辛カレーみたいだった。
 ぼくは罠を甘口にすることにした。
 罠のストレスは見えないこと。だから突然襲われるし、毎歩の確認が欠かせない。ぼくは「罠がどこにあるか分からない」という狩られる側のストレスをプレーヤーに持たせたくはなかった。
 なので、罠を初めから見えるようにした。加えて、敵も罠にかかるし、罠を壊せるようにもした。これまでの理不尽要素をすべて反転させた。ただし、なんの罠なのか分からないようになっている。もしかしたら毒かもしれないし、回復かもしれない。踏んでみるまで効果がわからないので敵に踏ませるのが安牌だ。ところがクリティカル倍増の罠だったりすると途端にピンチになる。
 罠を避けるための労力ではなく、罠をどう使うか迷うことが、ぼくが狙う適度なストレスの形。