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温度計はここに

by 唐草 [2019/06/26]



 6月も終わろうとしているこの時期は、梅雨のせいで気温の乱高下が激しい。雨が降れば梅雨寒という言葉にあるように肌寒いこともある。一方で雲が切れて日が差せば、ギラギラした太陽が夏本番のような暑い陽気を運んでくる。
 今日のように晴れた日に職場の自室に入るとムッとした重い空気が体にまとわりついてくる。体感でしかないが、部屋の中は明らかに屋外より暑い。鉄筋コンクリート製の建物なので、前日の熱い空気が残ってしまうのだろう。クーラーを付けなければ、とてもじゃないけれど仕事なんてできない。ぼくは部屋の電気をつけるより先にエアコンのスイッチを押すのであった。
 この部屋はいったい何度なんだろう?自宅では理科室にありそうなアルコール温度計3本と針の動く温度計3台の合計6台を愛用しているほどに温度測定が大好きなぼくだが、あいにく職場には温度計を持ち込んではいない。自宅はどの部屋にいても室温を簡単に知ることができる。そんな環境に慣れ親しんでいるので、温度を測れない職場の環境が急に窮屈に感じられてきた。
 あぁ、温度が知りたい!今の温度は何度なんだ!
 何かの禁断症状のような強い欲求が、ぼくの全身を駆け巡っていく。
 クーラーが力強く吐き出す冷たい風が部屋の温度をぐんぐん冷やしていく。それでも、ぼくの温度を知りたいという欲求は冷める気配を見せない。経費で温度計の購入が許されるのかを検討し始める始末である。「熱中症予防」という口実があれば申請は通るではないだろうか?
 そんな業務には微塵も関係ないことを考えているうちにエアコンが静かになった。設定してある26℃に到達したようである。
 温度計のことしか考えられない頭をリセットするためにコーヒーでも飲もう。ぼくは冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し、電気ケトルの前に立った。「保存のために冷蔵するしか無いとは言え、沸かすための水を冷蔵しているのは地球に優しくないな」といつものことを考えながら電気ケトルのスイッチを入れた。
 操作パネルには26と表示されていた。
 その数字を見たぼくは、誰もいない部屋で一人叫んでいた。
「温度計ならここにあったじゃないか!」と。
 この電気ケトルは優秀な品で、1度単位で温度調整ができるし、現在の温度も表示してくれる。ケトルの中身が空なら、それは部屋の空気の温度を示していることになる。なんでこんな単純なことに1年も気がつけなかったんだ。
 部屋の温度を知りたかったら電気ケトルをつける。これが、これからのスタンダード。