by 唐草 [2023/06/10]
知人の中で一番意識が高いと思われる人からビスケットをもらった。当然のことながら意識高めのビスケットだった。
シンプルな白いビスケットの小箱に入ったお品書きのような紙には、小さく淡い文字でグルテンフリーだと書かれていた。
困ったな。ぼくは小麦アレルギーではないく、意識が高いものアレルギーだ。これを口にしたら蕁麻疹は出ないけれど、笑いが止まらなくなってしまいそう。
文字には、まだ続きがある。そこにはもっと危険なことが書かれていた。このビスケットは砂糖不使用の低GI食品だそうだ。ますます意識が高い。追い打ちをかけるかのような続きがまだある。
なんとポルチーニ茸味なのだ。
製法も素材も味も何もかもが意識高すぎだ。致死量の意識の高さと言っていい。
それでも食らってやろうじゃないか、意識の高さとやらを!とすごみながら小さな白いビスケットにかぶりついた。
口いっぱいに独特の香りが広がる。これがポルチーニ茸なのだろう。食べたことがないので分からないが。
香りが消えると、残るのはわずかに香ばしさのあるビスケットの薄い味だけ。サクサクとした軽い食感は心地よいが、名高い茸の力を借りないと味のパンチは弱い。
味の薄いビスケットを食べているうちに、なんだか前に似たものを食べたことがあるような気がしてきた。既視感の味版みたいな感覚だ。なんだろう?喉まで出かかっているけれど思い出せない。
既視感の正体を見極めようとパッケージ背面の成分表示に目を通す。グルテンフリーのビスケットは、今流行の米粉と馬鈴薯デンプンが主成分だった。
馬鈴薯。つまり、じゃがいも。
その瞬間、懐かしさにも似た既視感の正体が分かった。
このビスケット、味のしないじゃがりこなんだ。じゃがりこプレーン味があったら絶対にこの味になる。
そうと分かれば怖いことなんて何もない。
眼を曇らせていた意識の高さが消え、我に返る。味のしないじゃがりこなんて食って美味しいのか?美味しくないよなぁ。ごめん、Xさん、グルテンとか低GIとかどうでもいいからジャンクなじゃがりこが食べたい。