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歯の違和感

by 唐草 [2024/04/04]



 先日、虫歯の治療を終えた。
 この虫歯は歯科検診で見つかったもので、自覚症状はなかった。だから、もっとも痛みを感じたのは治療で患部を削ったときだった。
 最後の治療は、型取りをした詰め物を歯にも埋め込むもの。それまでの繊細な歯科治療とは異なり、力仕事だと言っていい。治療椅子に寝そべるぼくが感じたのは、精工で複雑な形の詰め物が歯にねじ込まれていく力強さだけだった。
 詰め物をねじ込み終わった後、歯科医は穏やかな声で「他の歯に当たって痛いところはありませんか?」と尋ねてきた。
 正気言って、力強くねじ込まれたので歯の周囲は違和感だらけ。噛み合わせを確認すると詰め物がカチカチと歯に当たる。それでもぼくは「大丈夫です」と返事をした。違和感が一時的なものだと理解しているからだ。
 実を言うと生まれて初めて歯に詰め物をした時、詰め物の違和感に耐えられなかった。詰め物のサイズは合っていないようだし、調整したはずの噛み合わせもズレていて口を閉じられないようにすら感じた。だから、治療台でしつこく微調整を要求した。そして、家に帰ってからも一向に消えない違和感に苛まれ、ついには「あの歯科医はヤブ医者じゃないか」と訝りだした。翌日になっても違和感が消えなかった時、ヤブ医者疑惑は確信へと変わった。詰め物をせずに治療痕を放置したほうがマシだったとさえ思っていた。
 だが、そんな強烈な違和感も数日で消えた。どこが元からの自分の歯で、どこが詰め物の入った歯なのかが分からなくなっていた。つまり、ぼくが感じた違和感はワーストだった状態から脱却した変化への違和感だったのだ。それは汚部屋を片付けて落ち着かないと言っているようなもの。
 今となっては治療台でゴネたのが恥ずかしい。
 こんな苦い経験があるので、詰め物をした直後の違和感はあって当然だし、無視して構わないものだと理解している。だから、強烈な違和感を口に出さなかった。
 治療を終えた直後の食事には難儀した。イメージより早く口が閉じるようで気持ち悪かった。だが、そんないつもと同じ違和感もこれまでと同様に3日で消えた。もう詰め物はぼくの体の一部。