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無軌道な若者のように

by 唐草 [2024/01/02]



 2023年12月31日 午後11時52分。ぼくは悩んでいた。
 年末ムードもお正月ムードも皆無な我が家は、家族揃ってテレビを見るとか、年越しに合わせて初詣に行く準備をするといった特別なことは何もなかった。三連休の中日と同じようなダラけた雰囲気があるだけで、皆それぞれがいつも通りの時間を過ごしていた。
 いつもと変わらぬ夜を過ごすぼくは、当然ゲームで遊んでいた。停電でも起きない限りぼくをゲームから引きはがすのは不可能。それが年越しの瞬間であっても変わりはしない。
 この時遊んでいたのは『Ghostwire: Tokyo』という現代の渋谷を舞台にした和風アクションゲームだった。
 妖怪との戦いがメインのゲームだが、ぼくは脇道に逸れて渋谷の街の探索に精を出してた。紅い満月の光に照らされるゲーム内の渋谷は無人化している。駅の構内だろうと工事現場だろうとも好き放題に入れる。そして、天狗の力を借りればスパイダーマンのようにビルからビルへと飛び移ることもできる。
 ぼくはヒカリエからベースジャンプのように飛び降りてみたり、パルクールのように109周辺のビルによじ登ったり、警備員に背後から忍び寄って殴打したり、駅前に止まるバスに火炎弾を打ち込んだり、ハチ公像によじ登ったりして楽しんでいた。
 そんなことをしていたらふと気づいた。
 この無軌道な振る舞いは、ハロウィンや年越しカウントダウンを口実に渋谷駅前に集まる過激な若者集団と同じだということに。現実とゲームの違いこそあれど、世界的に有名な場所で好き放題暴れてセレモニーの瞬間を迎えたいという想いに大きな違いはないように思えた。
 禁止されていても渋谷で暴れる無軌道な若者たちも厄介な存在かもしれないが、そんな若者たちと同じような振る舞いをして喜んでいるオッサンの方が更に目も当てられない。今すぐゲームを止めるべきではないか?これが2023年最後のぼくの小さな悩みだった。
 ぼくの出した答は、渋谷で年越しは迎えないという良識ある判断だった。ゲームを終了させ、近所の寺の除夜の鐘の音が聞こえないかと耳を澄まして年明けを迎えた。