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オーロラよりも

by 唐草 [2024/05/12]



 天気予報から流れる太陽フレアの予測。磁気嵐による通信障害に備えよという注意。昔読んだSFの冒頭のようだ。でも、これは現実。二昔前に想像した未来よりも今はずっと未来なんだ。
 人々はポケットサイズの高性能端末を持ち歩き、ニュースではサイバー犯罪が報道されていて、戦場ではAI兵器が戦果の行方を担っている。ぼくらは70年代のサイバーパンク作品が子供騙しに思えるほど進歩した技術の中に生きている。
 いくら高度な科学技術の中に身を置いていても自然への興味を失いはしない。ぼくは、太陽フレアがもたらす天体イベントに胸を膨らませていた。
 北海道でオーロラが見られるかもしれない。何十年に一度あるかないかの貴重な天体イベントだ。月食と違って規則性がないのも希少性を高めている。
 緯度の関係で日本周辺で見られるオーロラは赤いと言われている。古い文献にも「赤気」と記されている。果たしてどれくらいの赤さなのだろう?文字だけでは伝えられない事実をこの目で確かめたかった。
 もちろん、オーロラを見るために北海道へ行きはしない。このSFの先を行く今ならどこかしらでライブ中継を見られるだろうと考えていた。案の定、ウェザーニューズがライブ配信をしていた。
 画面に映し出された夜空は見たこともない色に染まっていた。赤いと言えば赤いけれど、ぼくはこの色を赤とは呼ばない。ギリギリ紫に区分する色だ。とは言え、この現象を赤気と呼んだことには大いに納得したし、凶兆の前触れとされた不気味さも理解できた。何も知らずに見上げた夜空がこの色だったら、ぼくだって腰を抜かすだろう。
 低緯度のオーロラは、よくテレビなどで紹介される北極圏の青緑色のものとは全然別物で大いに驚かされた。でも、オーロラ以上に驚かされたものがあった。
 それが人工衛星の数。ライブ中継を見ている間、ずっと画面の左から右へ遅い流れ星のように映っていた。画面に同時に10機映っていたこともあった。通算で100台ぐらいの人工衛星を見た気がする。自然の驚異の前を我が物顔で横切る人間の技術に目を奪われっぱなしだった。
 やっぱSFの世界だ、この現実は。