by 唐草 [2020/03/18]
死海文書が贋作だったというニュースが流れた。多くの日本人には「ふーん」と言う覚めた感想しか湧かないニュースだが、キリスト教圏ではショッキングな発表なのかもしれない。ぼくはキリスト教徒ではいけれど、それなりにショックを受けている。
死海文書よ、おまえもか!
これがぼくの率直な感想だ。ただ、この驚嘆には悲しみや嘆きなどのネガティブな感情は含まれていない。むしろ、称賛に似た驚きが大部分を占めている。
20世紀末頃、世界にはオーパーツと呼ばれる不思議なものがたくさんあった。南米のクリスタルスカルやインドの錆ない鉄柱、エジプトの飛行機などが有名ドコロだ。どれもが、発掘年代の技術では作れないものだったり、まだ概念が生まれていないものだった。
ぼくは小さい頃からオーパーツが大好きだった。失われた古代文明の可能性にワクワクしたし、それらをきっかけに世界の歴史やオカルト、陰謀説などにも興味を持ち始めた。
だが、近年オーパーツと呼ばれるもののほとんどが種を明かされてしまった。クリスタルスカルは、近年の製作物。錆びない鉄柱は、気候と不純物の関係で錆びない科学的偶然。エジプトの飛行機は写真のトリック。幼き日のぼくが夢を膨らませていたもののほとんどが嘘や偶然だという現実が白日のもとにさらされた。
オーパーツとはちょっと違うけれど奇跡的に発見された死海文書も聖書の起源を解き明かす重要な資料だとされてきた。だが、死海文書も贋作だった。ぼくたちを驚かすような遺物は、すべて後世の人による贋作なのではないのだろうか?
この事実は、オカルト話が大好きなぼくを複雑な感情にさせている。
オーパーツの多くが贋作だったことで、古代へのロマンは潰えてきている。ぼくをワクワクさせたものたちは、みんな嘘偽りだったのだ。科学の発展がもたらしたのは、夢のない冷酷な真実だけだ。もう、これ以上オーパーツの真実を暴かないで欲しい。
同時に全く別の想いも沸き起こる。オーパーツが偽物だったということは、溢れんばかりの想像力で世界を騙すことに成功した天才的なペテン師たちが暗躍していたということだ。ミステリーサークルを作っていたおっさんのように密かに世界を騙し続けた人々の存在を知りたいので、どんどんオーパーツの真実を暴いて欲しいとも思っている。
オーパーツ好きの最後の希望は、アンティキティラの機械だけである。本当にアナログ計算機であってほしいと願うのと同じぐらい、卓越した贋作師の手わざであってほしいとも願っている。オーパーツへの夢とペテンへの憧れが、ぼくの心の中で激しい葛藤を引き起こしている。