カレンダー

2022/08
 
   
       

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

抽象画の中で

by 唐草 [2022/07/12]



 先月、向かいの家の外壁がオレンジ色になって愕然としたと書いた。何日かすれば慣れるだろうと思っていたが、その小さな希望は潰えたと言っていい。明るい時間は、壁が反射するオレンジ色の光が差し込み続けていていつでも黄昏時のよう。慣れるどころか体内時計が狂いそう。もはや、この壁は環境公害に近い。
 数年前に有名漫画家が、自宅をトレードマークである赤と白のボーダーに塗って物議を醸したことがあった。ぼくはその漫画家が好きなこともあり、赤白の家に異議を唱えて訴訟までチラつかせていた人をやりすぎだと思っていた。今は考えを改め、隣家が好まぬ色になったストレスというのは経験するまで理解できないものだと痛感している。
 先週からオレンジ色の家の隣も外壁の塗替えが始まった。同じ時期に建てられた住宅なので、同じタイミングで補修が必要になるのだろう。
 今回の塗替えも幕の中で行われていた。作業が終わり幕が外されるときまで、何色の壁が出てくるかは分からない。オレンジ色の壁に辟易しているぼくは、地味で目立たない外壁にありがちなベージュのような色が現れることだけを願っていた。さすがに隣の家もオレンジ色になることは無いだろうが、油断はできない。脳内パレットに小学生の絵の具セットぐらいの色数しか登録されていない人も少なくないのだから。
 ついに幕が取れた。
 現れたのは、緑のツートンカラーに塗り分けられた外壁だった。1階はやや暗い緑であるエメラルドグリーンで、2階は淡い緑のペールミントだった。
 どちらの色も住宅の壁面ではあまり見ない色。これらの緑に塗られた建物に対するぼくのイメージは花屋か自然食料品店といったところ。住宅街では、異彩を放つ色と言っていいだろう。
 しかし、オレンジ色の隣だと元気のいい植物のような緑色なんて地味に見える。ありふれた外壁の色でないことは確かだけれども、ぼくの中ではだいぶマシに思えている。
 窓の外に目をやると大胆に塗り分けられたオレンジと緑の平面が視野の大半を占める。1950年代の抽象画の中に生きているようだ。落ち着かない。