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ゴムの刃

by 唐草 [2022/07/10]



 爪は、歯や骨についで人体の硬い部位の1つ。その硬さは、人類が野生動物だった遠い昔の武器の名残なのか?それとも、器用な指先をさらに便利にする道具として進化したものなのだろうか?
 人に爪がある進化の理由がどちらだとしても、ぼくは納得できない。ぼくの爪は武器にするにも道具にするにもあまりにも薄く華奢だからだ。
 顕著なのは左手の親指。この指の爪は、他の9本の指の爪とぜんぜん違う。まるでこの指だけ別の生き物の指を移植してきたかのようである。
 左手の親指の爪の最大の特徴は、なんと言っても柔らかいことである。他の指で爪の先の白い部分を軽く押すとグニグニ曲がる。容易に曲がりゴムのように反発する押し心地は、炭酸飲料用の肉厚なペットボトルに似ている。
 左手の親指の爪の特徴は柔らかさだけでない。薄いことも忘れてはいけない。薄さは爪を触っただけですぐに分かる。なまくらな刃物を触っているような感じがする。爪を切れば薄さが感覚的なものだけでないことが理解できる。切るのに必要な力がぜんぜん違う。テコの原理を利用した爪切りなんていらない。赤ちゃんの爪を切るときと同じでハサミで切れる。きっと薄さが柔らかさの原因なのだろう。一度ノギスで厚さを測ってみたい。
 爪が薄く柔らかいと、日常生活で困ることも多い。硬い蓋を開けるときに爪を使おうものなら爪は手の甲側に曲がって割れる。力がかかるのがピンポイントだった場合は、そこが欠ける。以前、自分のくるぶしを掻いていたら爪が曲がったこともあった。
 ぼくは自分の脆い爪を守るために丁寧な生活を心がけている。爪に振り回された生活とも言える。だから爪が何らかの利益のために進化を生き延びたとは思えないのだ。
 薄いことを活かして試してみたいと思っていることがある。
 ミステリーに爪を刃代わりにするトリックがある。ぼくの薄い爪なら少し削るだけでカッターナイフの刃のようになるだろう。これで首の動脈は切れなくとも、髭をそったり紙を切ったりできるか試してみたい。
 もっとも柔らかさが仇になりそうだけれども。