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小さな生態系

by 唐草 [2021/09/16]



 数年ぶりに家の中にヤモリが現れた。小ぶりな体から察するに今年生まれたヤモリだろう。家の周りの緑もすっかり減って自然が遠のいたように感じていたが、小さな野生動物たちは負けることなく命を繋いでいるようだ。
 10年ぐらい前までは、夏の夜に散歩すると照明に集まる虫を狙うヤモリの姿は珍しくなかった。だがこの数年、夜に散歩へ出ても野生の生存競争を目の当たりにする機会はなくなっていた。だからこそ、自宅にヤモリが現れたのが嬉しくもあり、誇らしくもあった。
 暑い季節は、窓を開けて網戸だけにしている時間が長いので小さな侵入者が絶えない。幸いなことに忌み嫌われるGには遭遇していない。益虫と呼ばれることの多い生き物が中心だ。8月は、小さな黒っぽいクモをよく見ていた。ハエトリグモと呼ばれるやつだろうか?コバエを含めハエなんて全然見ていないのに、どうやってこのクモは生きていられるのだろうか?少なくとも屋内には餌となる生き物もいなさそうなので、小さなクモを見つけては外に逃がしていた。
 ヤモリはそんなクモを追いかけて屋内に入ってきたのだろうか?だとすればぼくは、家の中に避難してきたクモを危険いっぱいの野に戻していたことになる。人間の親切心なんて自然のサイクルの中ではお節介にしかならないということか?
 いや、そうじゃない。自然も危険に満ちているかもしれないが、我が家の中は小動物にとっての地獄である。多くの猫が生息しているからだ。猫は楽しみのために小さな生き物を殺す。
 ぼくがヤモリを見つけてキャッキャと騒いでいたら、猫もヤモリを見つけてしまった。その瞬間、戦いの火蓋は切って落とされた。逃げるヤモリ。それを追う猫。猫を止めようと走るぼく。ぼくの親切心がヤモリに届くことはなく、立体的な動きが交差して小さな我が家は大混乱に陥った。どうにかヤモリを屋外へ逃がすことに成功してぼくは満足たが、猫はおもちゃを取り上げられたようで不服な模様。
 クモを追う爬虫類。爬虫類を追う肉食獣。肉食獣を止めるヒト。街の片隅で小さな生態系が今日も回っている。