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ひよ子の順

by 唐草 [2023/03/19]



 東京銘菓ひよ子の季節限定紅茶味を頂いた。春がなぜ紅茶味なのかはよく分からない。理由はわからなくとも美味しいという事実には変わりない。ぼくは情報を食べているわけではないので春の謎は頭の片隅に追いやり、素直に紅茶味を楽しむ。
 ひよ子紅茶味は、なかなかしっかり紅茶味。少なくとも『午後の紅茶』のようなペットボトル紅茶よりも、ずっとカップで飲む本物の紅茶に近い。一口目は完全に紅茶を飲んだときと同じ香りが口いっぱいに広がる。その驚きは、ひよ子を頭から食べるか、それとも尻から食べるか悩んでいたことをすっかり忘れさせてくれるほどのもの。しかし、食べ終えるときにはしっかりひよ子の甘味が前に出る。いい塩梅の紅茶感。
 この季節限定ひよ子は、かなり豪華な化粧箱に入っている。伝統的な「七宝つなぎ」文様をアレンジした模様に包まれた春らしい爽やかな緑色の箱だ。蓋を開けると3匹のひよ子が斜めに行儀よく等間隔に並んでいる。
 このようにきれいに並んだお菓子を見るとぼくは、どれから取ろうかと迷って手が止まる。味が全部一緒だと分かっていてもだ。
 左から順にひよ子にA,B,Cと名前をつけよう。
 一般的には、左右の端にあるAまたはCから取るのだろう。ぼくにはそのとり方がひどく退屈に見える。どんなときにでも杓子定規にルールに従い、いつでも他人の目を気にしているような印象が拭えない。
 だからぼくは真ん中のBを一番に取ろうとする。
 だが、手に取る前に2個目のひよ子を取ったあとのことも考える。
 真ん中のBを取った以上、残っているのは左右のAとC。どちらを取っても残るのは端の1個になる。その様子を見ると、やはりルールに縛られた硬い取り方に見える。
 3個の中から2個取った状態でもっとも大胆に見えるのは、なんと言ってもBだけを残す中央残しだろう。しかし、ぼくは最初に中央を取りたいと考えている。
 初手で大胆にルールを破るべきか。はたまた、最後の一手に驚きを残すべきか。実に難しい問題だ。残った1個を中央に移すような姑息な真似はしたくない。
 ぼくは3匹の小さなひよ子を前にして逡巡している。