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負の遺産の末路

by 唐草 [2021/07/28]



 大学のネットワークの端っこに「負の遺産」と陰口を叩かれているエリアがある。そこでは何年か前の院生が構築した独自システムが動いている。院生の研究成果としてみれば、バラバラに存在するサービスを上手く融合させたシステムで当時としては最先端だったはず。今となっても、ぼくは悪くない発想だと思っている。
 それなのに負の遺産扱いされるのには、それ相応の理由がある。重要な但し書きが存在しているからだ。
 「ちゃんと動くのであれば」という致命的な前置きがあれば、評価できる代物なのだ。アイディアを実装して動かしてはいるけれど、実用に耐えるレベルには遠く及んでいない。研究領域だと考えてもゴールに達しているとは言い難い。それに加えてバージョン依存が大きくてアップデートはできないし、マニュアルは不十分。作った院生はすでに卒業しているので誰も何も分かっていない領域が多数存在する。これが「負の遺産」たる由縁だ。
 屋台骨がボロボロであることだけが判明しているシステムに外部向けサービスを載せてしまったから、さあ大変。正常に公開されている時間よりエラー時間のほうが長いような状態が続いていた。こんなことが続けば至るところで鬱憤が溜まっていく。皆がイライラを抑えながら使ってきたのだが、ハードディスクが壊れたことで堪忍袋の尾が切れた。だが、そんな謎システムに手を出せる人はおらず、巡り巡ってなんの関係もないぼくのところに飛び火してきた。それが2年ぐらい前の話。
 全面改修は不可能に近かったので、動き続けているようにシステムを騙す仕掛けを用意して、ブラックボックス内のデータを退避させたりとハッキングまがいのトリックプレーで難局を乗り越えた。手強い仕事だったけれど、ぼくのところに転がり込む話はこんなものばかり。だから諦めこそあれ焦りはなかった。
 ぼくが手を加えてからは安定稼働を続けていた。だが、一昨日の晩にシステムが全面ダウンした。
 慌ててサーバ室へ駆け込んだら衝撃の光景がぼくを待っていた。
 無停電装置が壊れて電力が供給されなくなっていた。局所的停電である。これまでいろんなエラーを目にしてきたが、無停電装置が電力供給をしていないのは初めて。ぼくもまだまだ修行が足りないな。