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さよならキノコ

by 唐草 [2019/07/24]



 長かった今年の梅雨もようやく終わりを告げようとしている、と思う。でも、晴れマークの並ぶ天気予報を見ても、にわかには信じられない。きっとまた雨が降るに違いないという疑いが、空を覆う今年の雨雲のように重く垂れ込めているのである。それに連日降り続く長雨と夏日に届かない低い気温のせいで、今が夏の盛りである7月だということを忘れそうである。せめて蝉の声でも耳にできれば夏を感じられるのだろうが…。
 低温と長雨続きですっかり冷夏の雰囲気が強くなってきている。我が家でも洗濯物が破綻寸前になっている。きっと農作物の成長も芳しくないだろう。その余波が食卓を直撃する日も近いかもしれない。連日猛暑日を記録するような夏を望んでいるわけではないが、この煮え切らない季節感の乏しい長雨よりはまだマシだ。
 ぼくと同じように長雨に辟易している人も多いだろうが、この状況を活況として喜んでいる人やものも少なからずあるようだ。なんでも乾燥機を求める人々でコインランドリーが大盛況らしい。そして、もうひとつがキノコである。
 キノコと言っても食用のシイタケとかエノキなどのキノコの話ではない。その辺に自生している雑草のようなキノコ(たぶん毒キノコ)のことである。
 ぼくの職場の近くには、整備された芝生のエリアがある。定期的に芝刈りをして草の丈はいつも短く健康的。植えられた松は、数ヶ月に1度のペースで植木屋が剪定をしている。だから、巨大な盆栽のような広がりのある枝ぶりを1年を通して保っている。あまりにも管理されている様に自然は感じられないが、豊かで整った緑が目を楽しませてくれる。
 だが、今年だけは様子が違う。
 整った芝生をよく見ると緑の隙間から黒や白、茶色のブチが所構わず顔をのぞかせている。ブチの正体こそ野生のキノコである。素人のぼくにはきのこの種類を判断することはできないが、3cmから5cmぐらいの傘を気持ちよさそうに芝生の上に広げている。キノコが生えているのは芝生の中だけではない。松の根本にも生えている。残念なことに松茸の傘でないことは、素人目にもすぐ分かる。
 何年もこの芝生の横を通ってきたが、キノコが顔を出しているのに気がついたことはなかった。きっとあっても日陰に数本ぐらいだったのだろう。でも、今年は違う。厚い雲が日差しを遮り、1日住降り注ぐ霧雨が十分な水分を供給し続けたのだろう。芝生は、もはやキノコ畑の一歩手前まで来ている。
 でも、キノコの天下ももう終わるはずだ。おかえり夏、さよならキノコ。