カレンダー

2019/05
   
 
       

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

タルタルソース

by 唐草 [2019/07/23]



 目玉焼きの醤油派とソース派の争いは永遠に決着のつかない論争の1つだろう。両者の溝は底が見えないほど深く、いかなる妥協の余地もない。イギリスかぶれのぼくは塩コショウ派を標榜して醜い論戦を中立の立場で傍観しているように装っているが、内心ではソース派のことを野蛮人だと見下している。このスタンスがイギリスかぶれらしい振る舞いである。
 食べ物の論争は、枚挙にいとまがない。キノコタケノコ論争も絶対に融和が訪れない不毛な戦いだ。焼き鳥のタレvs.塩も文明が続く限り継続するイデオロギーの対立と言えるだろう。なぜ、食を巡る対立はこうも激化していくのだろう。古来よりコミュニティでの優劣は食べ物を集める能力に左右されてきた。食に困ることがなくなった我々だが、遺伝子の中に眠る本能が食に関わる闘争を無意識のうちに求めてしまうのだろうか?
 昨日、ぼくはヒレカツを食べた。トンカツを巡る論争もいくつかあるが、血で血を争うような激論にはなっていない。芳醇なトンカツを食べれば、みな論戦のことなど忘れてしまうのだろう。
 だが、昨日のヒレカツは新たな論争の火種を振りまくこととなった。
 なんと、ヒレカツの脇にタルタルソースが置かれていたのだ。ヒレカツを中濃ソースではなくタルタルソースで食べろという店側の強い主張である。
 タルタルソースと言えば、魚介系のフライなど淡白な味の揚げ物との相性がいい。ヒレカツは、トンカツ類の中では脂身が少なく淡白な部類である。濃厚なロースカツにタルタルソースが盛られていたら断固拒否しただろう。でも、サッパリしたヒレカツなら悪くないかもしれない。食わず嫌いと思い込みで食の世界を狭めるのは人生の大きな損失である。よし、タルタルヒレカツにチャレンジしてみようじゃないか。
 皿に盛られた白いタルタルソースをヒレカツになすりつけた。衣にタルタルソースがベッタリと付いた一口サイズのヒレカツは、どうみても魚のフライにしか見えない。このまま食べると脳が混乱しそうである。「これはヒレカツ。これは豚肉」と呪文のように頭の中で唱えながらカツにかぶり付いた。
 まず口に広がったのはタルタルソースの酸味。その後から濃厚な豚肉の味がやってきた。肉を飲みんだ後も、タルタルソースのおかげでサッパリとした風味が口に残る。悪くはない。
 でも、豚肉を食べたという重厚な感覚が残らない。これではトンカツを食べようという食前の熱い想いを満たせない。やはりトンカツは中濃ソースがベスト。というか、中濃ソースの味も含めてトンカツなのだ。そんな確信を深めた食事だった。
 こういうことを書くと塩派が黙ってないんだろうな。ほんと、塩派は滅んでほしい。