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風呂に入れない

by 唐草 [2018/06/23]



 浴室の扉が開かなくなった。押してもビクともしない。何が起こったんだ!?
 我が家の浴室の扉は、よくある中折れ式のスライドドアだ。開閉に特別な操作などいらないし、鍵が必要なわけでもない。押せば開くし、引けば閉まる単純な扉だ。一応チャイルドロックが付いているが、ロックはかかっていなかった。
 まるで浴室内にいる誰かが、強力に扉を押さえているかのようである。いったい浴室内で何が起こっているのだろう?
 曇りガラス越しに浴室内を窺う。ハッキリとは見えないが、もちろん人の気配なんてしない。我が家のネコもすべて浴室外にいる。考えても何が起こっているのかサッパリ分からない。まるで四方を曇りガラスで囲まれたような気分である。
 このままでは埒があかない。強硬手段に出る必要がありそうだ。
 強硬手段と行ってもマスターキーを振り回して扉を破壊するわけではない。もっと穏健な手段である。浴室の扉は、緊急時などの時のために脱衣所側から取り外すことができるよう設計されている。もう開けるのは諦めて、外してしまおう。
 扉に書かれた緊急時の手順に従ってロックを外していく。支えを失った扉は、浴室の方へと倒れ込んでいった。なんとか扉をキャッチして脇に置いた。ドアを置くというのは、なんとも妙な感覚である。
 ついに開かれた我が家の浴室。そこには意外なものが転がっていた。
 お風呂のフタが横たわっていたのだ。どうやら風呂のフタが、つっかえ棒のようになって扉を押さえていたようだ。昼間にネコが風呂場で遊んでいた時に風呂のフタを倒してしまったのだろう。倒れたフタが偶然にも扉に寄りかかっているのを気が付かずに扉を閉めてしまった結果、見事に内部からロックされてしまったと言うことか。
 ちょっとしたミステリーの密室トリックのようである。幸い、死体は転がっていなかった。
 ここで終わりにできれば良かったのだが、実はこの後も風呂に入れない状態が続いた。なんと外した扉を元に戻せなくなってしまったのだ。扉のないまま入浴したら脱衣所は、水浸しになってしまうことだろう。扉が開かなくて入れない浴室が、扉が無くて入れない浴室に変わっただけだったのである。