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ARかまぼこ板

by 唐草 [2023/06/06]



 ついにAppleもVRゴーグルを発表した。VR(仮想現実)とAR(拡張現実)の両方に対応しているので、厳密にはMR(複合現実)と呼ぶべきかもしれない。しかし、用語の定義を気にする必要はない。当分の間、Appleのゴーグルを手にするのは限られた人だけになるのだから。
 Appleの発表に目を通すと、新しい製品のVision Proは従来のVRゴーグルとは目指しているものが違うという印象を強く受ける。これまでのVRゴーグルがエンターテインメントを中心に据えていたのに対して、Appleのものはクリエイティブ要素が強い。仮想世界に飛び込むというのではなく、仮想世界を現実に持ってくるという感じだ。
 Vision Proが作るのは、空中に投影されたタブレット端末を操作するようなSF映画が描いていた未来。指揮者のように空中で指を動かすだけで操作できるようだ。
 空中に仮想ディスプレイが浮かんでいるのは悪くない。モニターという物理的な制限を超えられるのは、これまでなし得なかった。従来とは異なる場所や姿勢で、さまざまな体験をすることができるようになるだろう。
 だが、ぼくは操作部が何も無いという点に不安を感じている。画面切り替えなどの大きな操作は視覚的に確認できるので問題なさそうだが、文字を打ったり細かい選択するときが心配。視覚と聴覚だけのフィードバックでは物足りない。物理的なボタンが動くほどではないにしろ、なにかに触れたという感覚がないと自分の操作に自信を持てないだろう。
 何もない空中で指を動かすよりも、ARマーカーの付いたかまぼこ板を触ったほうが安心感がある。
 きっとこの感覚は、ぼくがVRの世界に慣れていないせい。でも、それはぼくだけではないはず。世界中の全員が既存のデバイスのイメージに引っ張られた不慣れな人間だ。
 今度こそ本当にVR元年が訪れるのであれば、虚空を操作することに慣れなければならないという過酷な過渡期がやってくる。自転車に乗る練習をする際に補助輪が必要なのと同じように、VRの世界に慣れるための補助輪的なものが欲しい。それがかまぼこ板であったとしても。