カレンダー

2021/05
      
     

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

桜餅の香り

by 唐草 [2023/04/01]



 桜の名所と地元で評判の公園には、ソメイヨシノだけでなく様々な桜が植わっている。その中に桜餅の香りのする桜があるという話を聞いた。本当だろうか?
 桜は、梅などの季節を告げる他の花に比べて香りの印象が無い。咲き誇る桜の花のボリュームに目を奪われ香りへの意識が疎かになっているのだろうか?そうではない。桜の花の香りは、ほとんどしないのだ。
 桜の花には香りがないが、桜餅には独特の風味と香りがある。関東と関西で桜餅の形は異なっているとは言え、その香りはほとんど同じ。塩漬け桜葉のほのかな香りを楽しむのが桜餅の醍醐味だ。形が違えど桜餅を桜餅たらしめているのは、桜葉の塩漬けだと言っていいだろう。
 ということは「桜餅の香り」は、「塩漬け桜葉の香り」とイコールであると考えて間違いない。花に香りがなくても葉が香れば良いわけなので、桜餅の香りのする木があっても不思議はない。
 頭で考えれば香りの正体を理解できるかもしれないが、論理的な考察を重ねたからといって納得できたわけではない。実体験に勝る納得への近道はない。と言う訳で、花盛りの公園へ足を運ぶことにした。
 公園の桜は、早すぎた開花とその後の雨でだいぶやられていた。せっかく花見にベストな陽気を迎えたというのに満開は過ぎていた。それでも、公園はコロナ前の賑わいを取り戻したと言っていいぐらいに賑わっていた。
 今日の目的は花見ではない。一箇所にとどまるのではなく、暖かい南風が巻き起こす桜吹雪を浴びながら公園を進んでいく。
 花のないオフシーズンには、桜の木はどれも同じに見える。ところが、一度花をつけるとまったく違った表情を見せる。ぼくらが桜色と呼ぶ淡い色の花だけではない。真っ白な花も少なくない。花と同時に若葉が芽吹く桜の花は、日に透けるとほんのり淡い緑にも見える。
 桜餅の香りのする木があると聞いた公園の裏口についた。シダレザクラやヤマザクラなどソメイヨシノ以外の桜が数種類植わっている。地味な桜が多いので花見に興じている人は少ない。
 一本一本に顔を近づけ香りを確かめる。でも、どの桜からも桜餅の香りはしないなぁ。