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ドリルの下で暮らす

by 唐草 [2023/02/08]



 在宅ワークだからと惰眠を貪っていたぼくを目覚めさせたのは、頭上をドシドシと歩く音だった。そうだった、今週は天井の張替え工事なんだ。いつものようにダラダラと寝ていることはできない。
 PCさえあれば時と場所を選ばず仕事ができるぼくは、仕事時間の管理がルーズになりがち。余裕があればいつまでも始めないし、切羽詰まれば深夜におよぶ作業で挽回を狙う。調子がいいときは休憩を挟まず長時間仕事に没頭するけれど、集中力が上がらない日は何度もコーヒーに頼る。
 職人たちは、ぼくとは違って時間に正確な働き方をしている。朝は寒くても早くから仕事に取り掛かる。暗がりでの作業は危険なので日没前に上がれるように段取り良く、そしてサボらず仕事を進める。無理せず約2時間おきに休憩をきっちり挟む。
 このように水と油といっていいぐらい働き方の異なる人間が、同じ家の内と外で同時に仕事をしているのは興味深い状態だ。時代の多様性を示していると言えるかもしれない。
 とポジティブに状況を捉えようと努力しているが、実際のところあまり芳しい状況ではない。
 おそらく職人たちは、気配はあれど姿の見えないぼくのことに薄々気づいている。きっと無職の引きこもりがいるやべー家の工事を請け負っちまったとか思っているだろう。
 一方のぼくは天井から降ってくる聞き慣れない足音におびえているし、断続的に聞こえてくる電動工具のけたたましい音に閉口している。音の暴力は、ぼくの仕事の要である集中力を容赦なく刈り取っていく。
 ぼくがクレーマー気質なら窓を開けて天井の上の職人に向かって「もっと静かに仕事をしろ!」と怒鳴ったかもしれない。これこそ本当にヤバいやつだ。
 幸いにも小心者のぼくは自己中心的で粗暴なことをしようとは思わない。仮にしたって声を張り上げることに慣れていないぼくの調子外れな大声は、電動工具の音にかき消されるだろう。
 なので、事も声も荒らげずにそっと耳栓を使う。これでOKだ。
 と思ったんだけど、耳栓でも音は防ぎきれないし、工事の振動でモニターがグラグラ揺れてる。工事中の在宅ワークは無理っぽいな。