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残された可能性

by 唐草 [2022/07/14]



 学生の制作物が全然面白いと思えない。この状況にぼくは危機を感じている。
 課題は、自分の好きなものを紹介する電子書籍を作るというもの。どんなテーマを選んでもいいので、これまで多岐にわたるテーマが選出されてきた。旅行やグルメ、ファッションといったちょっと背伸びをしたテーマからゲームやマンガ、アニメといったオタク全開のテーマもあった。
 テーマの幅は広いとは言え、どれも手垢のついたものばかり。制作するのは大学生なので、制作スキルも低いし知識や経験も狭い。出来上がるもののクオリティーは、贔屓目に見ても低い。それでも、どこかに個性の片鱗が見えていた。
 ぼくは、粗削りでありふれたものの中に潜んでいる個性を見つけて楽しんでいた。むしろ、それが面白いので授業を引き受けてきたと言ってもいい。
 だが、今期の制作物にはぼくが楽しめる要素が全然見当たらない。これまでに似たテーマの作品もあったが、それらと比べても面白いと思えない。なんだか空虚な劣化コピーを見せられているよう。
 これまでにも手を抜く学生はいた。そんな学生の提出物は本当に中身が薄かった。でも、それは圧倒的少数派。全員がそろって退屈なものを提出したことは一度もなかった。
 なぜ、今期は揃いに揃って面白みに欠ける作品ばかりなのだろう?
 授業の進め方は例年通りで何も変えていない。だから、進行に不備があったとも思えない。偶然やる気のない学生が集まってしまったという可能性もあるが、全滅となると別の要因があるように思えてならない。授業を受け持って約9年目で初めての展開に頭を抱えている。
 コロナ以降、学生の選ぶテーマが内向的になっている。だが、コロナ前にもオタク全開で面白いものはあった。時代のせいというわけでもなさそうだ。
 だとすれば、考えられる可能性はそう多くない。
 たぶん、ぼくが変わってしまったんだ。9年という月日は長い。もう学生の若い感性を面白いと思えないぐらいにぼくが老いてしまったんだと思う。
 そろそろ老兵は去るべきなのかもしれない。後進に席を譲るのが、ぼくにできる最後で最良の一手だろう。