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パンツを買いに

by 唐草 [2022/02/20]



 立て続けにパンツが破けた。
 ズボンではなく下着の方のパンツだ。いくら他人から見えない下着とは言え、親指大の大きな穴が空いているのを履きたくない。穴の位置が、大事なものを隠すのには関係ない部分だとしてもだ。
 同じ時期に買ったパンツだから布の痛み方もだいたい同じだったのだろう。パンツが破けたことはとるに足らないことだが、手持ちのパンツが同時に2枚減ってしまったのは痛手だった。天気が崩れたりしたら履くものがなくなってしまう。
 早急にパンツを買いに行く必要がある。とは思っているのだが、コロナの猛威がいまだ拭いきれないこのご時世。たかだかパンツのためだけに買い物に行きたくはない。何かのついでにユニクロかなんかに寄ればいい。そう考えているうちに時間だけが過ぎていき、3枚目のパンツも布が薄くなってきた。
 先日、私用の帰りに近所のユニクロの前を通った。これはいいパンツゲットチャンス。そう思って店に入ろうとした時、重要なことに気がついた。
 その時のぼくは、ズボンのポケットに財布とスマホを入れているだけで手ぶらだった。カバンも持っていないし、リュックも背負っていない。この状態でパンツだけを買ったら、どうなるだろう。
 両手にむき出しのパンツを握りしめて家路を急ぐことになる。
 その姿、ちょっと変態過ぎやしないだろうか?帽子をかぶって、マスクをして、あまつさえサングラスまでかけた猫背の貧相な男が、両手にパンツを握って早足で歩いている姿を想像して欲しい。不審者情報が街中を駆け巡り、人々のスマホを鳴らすことだろう。こういう話には尾ひれが付きやすいので、握っているパンツが女物だったとうい話の飛躍が起きても不思議はない。
 ケチなぼくに10円の紙袋を買うという選択肢はない。ぼくの目の前にあった選択肢は、ただ2つ。パンツを握って歩くか否かだった。
 合理的な買い物の果に不審者になるか?それとも、街の安心のために身を引くか?
 ぼくは破れかけのパンツで逡巡していた。