カレンダー

2021/11
 
    
       

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

発火は好きじゃない

by 唐草 [2021/11/04]



 コンピュータ用語には、カタカナが溢れている。コンピュータの世界では生き馬の目を抜く勢いで日々新しい技術や考えが登場しているので、いちいち翻訳していたら世界のスピードに付いていけない。また、競争が激しく進化の早い業界なので生き残れる言葉は少ない。だから翻訳語が広く普及する前に元の言葉が消えてしまうことも多い。
 それに新しい言葉を覚えるのであれば、英語を置き換えたカタカナでも翻訳単語でも大差ない。ハッキリ言って翻訳をすることに価値がないのだ。
 それでも、翻訳した言葉が定着した例もある。
 ぼくがよく使うところでは「継承」がある。「クラス」だ「インターフェイス」だ「ストリーム」だとカタカナが飛び交うJava用語の中で翻訳済みなのは「継承」ぐらい。カタカナの中にある漢字に違和感を覚えるほど異質な存在。他言語の影響もあり「エクステンド」にはならず「継承」という訳が生き延びた稀有な例だ。
 「継承」と同じぐらい定着している言葉に「発火」という物騒な言葉がある。これは「マウスをクリックした」とか「ウインドウのサイズが変更された」とかの情報が送出されることを意味する。イベントと呼ばれるこれらの情報は、数珠つなぎにプログラムの中を流れて処理が進んでいく。その様が導火線を伝っていく炎のように見えるので、「発火」と呼ぶのが通じやすかったのだろう。
 ちなみに英語だと"ignite"。だからこの訳は、何ひねりもない中学生レベルの直訳。それでもイベント発生の動きを考えれると「点火」と訳さなかったことは評価できる。「点火」だと必ず人間が最初の火花を散らしていそうな印象が強くなってしまう。人間の操作に関係なくイベントは起こるので、勝手に燃え始めていそうな「発火」を選んだのは慧眼だし、これが支持されている理由だろう。
 優れた訳だとしても、この訳語は物騒な言葉。だから、よく使うけれども好きになれない訳語ナンバーワン。そもそも原語が物騒な"ignite"なんだからどうしようもない。最初に"ignite"を選んだ技術者のセンスが好きじゃない。