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オーガキラー

by 唐草 [2021/07/19]



 日々の行動パターンは、精緻な機械のように規則正しいリズムを刻む。意識して正確さを求めたら、かえって精度が下がるだろう。何も難しい話をしようとしているのではない。単純に腹時計の正確さに感嘆しているだけのことである。
 無意識下のパターン化された行動は、それ自体が個人を特定しうるサインになることがある。ぼくは、家を出るたびに一度も会ったことも見たことのない人の存在を感じている。特徴的なパターンの痕跡が規則正しく残されているからに他ならない。
 家を出て最初の角を曲がったところにある駐車場の植え込みに、いつも決まって赤と白の小さなものが落ちている。正体はポイ捨てされた小さな紙パック。人通りの少ない住宅街なのでポイ捨ても少ない。だから決まって同じところに紙パックがあれば、それだけでも目立つ。とは言え、紙パックだけなら同じ人物が捨てていると言い切るのは難しいだろう。
 ところが、そのゴミは間違いなく同一人物が捨てていると言い切れるだけの特徴がある。捨ててあるのは、常に清酒「鬼殺し」の紙パックなのである。きっと仕事帰りにバスを降りてコンビニに寄ってお酒を買って、ストローでチューチュー吸いながら家に向かって歩いているのだろう。ペットボトルのお茶のように大量に売れている品なら個人の特定は難しいが、酒を歩き飲みする人は少ないし、しかも決まったの銘柄ならばポイ捨て犯は同一人物だと言い切って問題ないだろう。
 ちょうど駐車場に差し掛かったあたりで飲み終えるのだろう。そのタイミングでものを隠せそうな植え込みが見えれば、ジャマなゴミをポイ捨てしたくなる心理が働くのも分からなくはない。ただ、どう考えても酔っ払いの浅知恵でしかない。毎日歩き飲みをしているんだからもうアル中なのだろう。
 迷惑なゴミを残すことでのみ存在を感じることのできる誰かがいる。規則正しい行動パターンが、顔も知らない人の褒められたものではない一面くっきりと浮かび上がらせる。ぼくはその人を密かにオーガキラーと呼んでいる。