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靴がない

by 唐草 [2021/05/09]



 服を買いに行く服がない。
 というネットの一部で親しまれているフレーズがある。これが裸族の魂の叫びである可能性は低いが、ある種の人にとっては冗談ではなく切実な問題なのかもしれない。ただ見栄っ張りなだけかもしれないし、貧困問題の一端かもしれないし、引きこもりの実情だという考え方もできる。
 ぼくは割りと真剣にこのフレーズを受け止めている。それには理由がある。ぼくはこのフレーズを手放しで笑える側の人間ではないからだ。
 幸いなことにぼくは服屋に来ていく服を持っている。ユニクロなら余裕だし、ZARAぐらいなら涼しい顔で入れる。それ以上になるとちょっと緊張してしまうけれど、どうにか服は問題ない。ぼくが抱えているのは、「靴を買いに行く靴がない」という問題だ。
 日本男児なら下駄を履けと言い続けているが、これは靴がないことの裏返しとも解釈できる。
 勘違いしないでほしいが、普段のぼくは野生児のように素足で出歩いているわけではない。一応靴は履いている。とは言え、それは「年季が入った」という言葉でごまかすことができない貧相なボロ靴なのだ。
 昔から靴を買いに行くことへの苦手意識がどうしても拭えない。
 靴って見た目だけではフィット感が分からない。だから、ネットで買いずらく、店舗で試し履きが欠かせない。それでも足にあっているのかよく分からない。また、ブランドによって同じサイズでも足に合ったり合わなかったりの差が大きいので数字を鵜呑みにはできない。ベストを求めて試せば試すほど自分の足に合うというのがどういうことなのか分からなくなっていく。
 また、試し履きのために店員に声をかけるのにも抵抗がある。だからと言って、勝手に店頭の箱を開けるのもはばかられる。そのせいで靴屋に行くと自分のペースで買い物できない窮屈さに襲われる。
 こんな風に靴屋への不満を四の五の言っていると、ますます靴屋に行きにくくなる。そうこうしているうちに、ぼくの靴はどんどん傷んでいく。今では自分で見るのもイヤなほどボロボロ。「靴を買いに行く靴がない」という現実に直面しているのである。