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シミよ、さらば

by 唐草 [2021/02/03]



 リモートワークをするようになって以来、本業とは関係のない理由で出勤することがあるようになった。ぼくの場合、職場のPCを再起動するという理由がその最たるものだ。電源ボタンを5秒ぐらい長押しするためだけに、片道1時間近くかけて出勤するのはなんともバカらしいし、出勤と呼べるかも怪しい。
 再起動のための出勤がもっとも無為な出勤だと思っていたのだが、今日はもっとバカらしい理由で出勤することになった。愛用のマグカップを職場の食器棚に戻すためだけの出勤である。すべてはコーヒーが悪い。
 ぼくは家でも職場でも浴びるようにコーヒーを飲んでいる。いつもかたわらには大きなマグカップが置かれている。退社する前には必ず洗剤をつけてゴシゴシと洗ってきた。そうやって2年以上使ってきた結果、マグカップの底の方には手洗いでは落とせない茶色いシミがこびりついてしまった。
 一方、家で使っているマグカップはキレイなまま。コーヒーしか飲まないので茶色いシミがあっても問題はないのだけれども、日常的にキレイなマグカップを見ているので汚れが気になってしまう。一度、家に持って帰ってキレイにしたい。そう思ったのが先月のこと。マグカップを丁寧にタオルで包んで家に持ち帰った。
 家と職場での洗い方は決定的に違う。職場では手洗いだが、家では食洗機を使っている。シミがないのは、この差が理由としか思えない。我が家へと回収されたマグカップは、機械の中で熱いお湯と濃い洗剤に揉まれ新品同様の輝きと白さを取り戻した。やはり機械の力は偉大だった。
 2年ぶりに自宅に戻ってきて磨き上げられたマグカップだったが、我が家の食器棚に収まるスペースは残っていなかった。2年という歳月は長い。人の暮らしも、食器棚の配置もガラリと変わってしまう。まるで、久々に帰省したら自室がなくなっていたかのよう。
 そんな訳でマグカップの置き場に苦慮する日々が続いていた。ハッキリ言って邪魔で仕方がなかった。
 問題を解決するもっともシンプルな方法は、カップを元の場所に戻すこと。我が家の平衡を取り戻すためにぼくはカップを職場に持っていく決意を固めた。こうして自転車と電車とバスとに揺られカップを戻すという目的を果たした。これだけは絶対にリモートではできない仕事だ。