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ケーキ屋の安否

by 唐草 [2020/12/09]



 コロナ禍の影響は、山火事のように思いもよらぬところへ飛び火しながら燃え広がっている。火の勢いが収まったように見えても、消し炭のように熱を保ち続けている。だから、火が小さくなることがあっても自然に消えることはない。手をこまねいていれば、燃えるものをすべて焼き尽くすまで延焼していくのだろう。
 コロナの影響は直接病魔に蝕まれることよりも、間接的に経済を巻き込んでいくことのほうが大きいようだ。この半年でいくつもの風景が様変わりしていった。その光景を断続的に見ていると、まるで街が病に侵されていっているようだ。
 昨年、鳴り物入りで開業した最寄り駅の商業施設は見る影もない。撤退が跡を絶たずコンコースは歯抜けのよう。明かりの灯らぬ店が並ぶせいで駅前は暗く、行き交う人も足早に去っていく。そんな光景を目の当たりにすると出口の見えない窮状の真っ只中にいると感じずにはいられない。
 その一方で懸命な努力で光を絶やさぬ店もある。今どきこんなレトロな店が潰れないのが不思議だと思ってしまうようなところがしぶとく生き残っていたりする。きっとこれまでの積み重ねてきた信頼や店を愛する人々に支えられているのだろう。
 ぼくの通勤経路に昭和の気配漂うケーキ屋がある。通りから店を覗くと目に入ってくるのは、ガラスのショーケースにお行儀よく並ぶイチゴのショートケーキだ。その他にも絵に描いたように基本に忠実で、誰もが知っているようなケーキが並んでいる。きっと聞き慣れないフランス語の名前のケーキなんて無いのだろう。
 一度は寄ってみたいと思って何度も前を通っているけれど、自転車通勤故にケーキを買うのは難しい。
 ここ最近は、通る機会も減ってしまったし、通る時間も変わってしまった。そのせいもあるが、しばらく店に客がいる様子を見ていない。いつ覗いてもショーケースにはぎっしりとケーキが並んでいる。ひとつも売れていないんじゃないかと思うと胸が苦しくなる。
 昨日、店の前を通ったらシャッターが降りていた。ついにコロナの魔の手は昭和なケーキ屋まで飲み込んでしまったのだろうか?
 慌てて調べたら定休日だった。まだレトロなイチゴのショートケーキを食べるチャンスはあるかもしれない。でも、うかうかはしていられない。