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実に1ヶ月ぶり

by 唐草 [2020/04/30]



 1ヶ月ぶりの出勤となった。世間の自粛ムードを跳ね除け、感染のリスクを負ってまで出勤したのは、Macの電源ボタンを長押しするという単純極まりない任務を果たすためである。これがリモートワークがどうしても超えられない限界である。
 1ヶ月ぶりの通勤という現実を目の前にして、ぼくは大きな不安を抱えていた。なにもコロナへの感染リスクを恐れていたわけではない。目の前にあるもっとハッキリした不安に恐れを抱いていたのだ。
 1ヶ月ぶりの出勤ということは、自転車に乗るのも1ヶ月ぶりだということになる。この1ヶ月間ぼくは大好きな自転車を我慢し続けていた。気持ちの良い春に自転車に乗れないなんて人生の損失でしかない。でも、ぼくは後ろ指さされながらも自分の利益を守るより、同調圧力に屈して公益を優先するように振る舞える大人だ。だから、ダイエット中にお菓子を渇望するような苦しい思いを胸に秘めながらもサイクリングを我慢していた。
 しかし、重大な使命を帯びた出勤となれば話は別だ。強力な言い訳をゲットしているので大手を振って自転車に乗れる。
 それでも不安は拭えなかった。だって、ぼくの人生において1ヶ月もの長期間に渡って自転車に乗らなかったことなんて一度もないんだもの。自分の体が、自転車に跨ることさえ叶わないほどに衰えているのではないかと不安でいっぱいだった。
 これは単なる杞憂ではない。風邪などで体調を崩して2週間ぐらい自転車に乗らなかったことがあるが、如実に筋力とスタミナが低下していた。イメージ通りに体が動かせないもどかしさを感じながら、やたらと重く感じるペダルと格闘したものだ。
 2週間でこれほどまで衰えるのだ。その倍近い1ヶ月ともなれば、影響度は絶大だろう。もしかしたら、バランス感覚を失っていて自転車に跨りペダルを漕ぐことすらできなくなっているかもしれない。
 なんだか自分がとても弱いものになってしまったように感じられた。
 散々な目に合うだろうと思いながら乗った1ヶ月ぶりの自転車。春の風を切って走るのは最高に気持ちが良かった。一応ペダルは漕げたものの、通勤経路を半分走った時点で膝が音を上げていた。なんだか自分の膝に横方向の穴が空いているような痛みと脱力感に襲われてしまった。
 1ヶ月乗ってないって、ここまで衰えるんだ。驚き半分、悲しみ半分である。