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メデューサの親戚

by 唐草 [2020/03/06]



 職場であるキャンパスは、水を打ったように静かである。あとは卒業式を残すのみとなるこの季節は、1年を通じて大学がもっとも静な時期であることは例年通りである。ところが、実際にキャンパスに立つとその静けさが通常とは全く異質なものであることがすぐに分かる。人の気配が希薄なのだ。フロアには、ぼくひとりしかいないのではないだろうか?まるで真夜中のような静けさに支配されている。
 サークル活動が禁止されているし、ゼミ室も大半が閉鎖されている。だから学生の姿はない。教員も多くは自宅に仕事を持ち帰っているのだろう。ぼくだって、リモートワークでこの数週間を乗り切ろうと考えていた。それどころか、通勤しなくて良いと喜んでさえいる。
 そんなぼくが、なぜキャンパスの静けさを知っているのか?
 そう、ぼくは出勤しているのだ。これには、ちょっとした逆転の発想がある。
 キャンパスは戒厳令でも発令されたのかと思うほど人の気配がない。と言うことは、普段だったら横やりが入ってなかなか取り組めない作業に没頭できるということである。つまり、人目を気にしなくていいのだ。これって千載一遇の機会じゃないか。
 ぼくは職場の門をくぐると、自分のオフィスではなく、サーバ室へと一直線に向かった。何年にも渡って整理整頓をしてこなかったサーバ室は、片付けられない大人の部屋一歩手前みたいな惨状だ。この部屋を片付けたかったのもあるが、そんな単純なことだけで出不精のぼくは動かない。
 何の監視の目も無いこのタイミングを最大限活用して、サーバ室に眠っている廃棄扱いの備品の中からお宝を見つけ出すのが真の目的だ。断っておくが、売って儲けようと思っているのではない。オフィスで活用しようと計画しているのである。
 漁った結果、2012年製のMacbookが発掘された。退官した先生が置いていった品のようだ。お宝ゲットだぜ!と思ったのだが、電源アダプターがなかった。これって缶詰はあるけど缶切りがないみたいな切ない状況である。
 今回のお宝発掘では、アース線のないPC用電源ケーブル6本しか欲しいものは見つからなかった。なお、2mの長く太い電源ケーブル6本を手で持って移動するのは大変なので、首にかけて持ち運んだ。ガラスに写ったぼくの姿は、ヘアボリュームが貧相なメデューサのようだった。