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2度焼く

by 唐草 [2019/10/07]



 食パンのポテンシャルを最大限引き出す焼き方を模索していることを先日書いた。カリカリと生焼けの間に存在するステーキで言えばミディアムレアみたいな絶妙な焼き加減。偶然でしかたどり着けていない理想の焼き加減を目指してトースターの前に仁王立ちしている毎日が続いている。
 ここまで真剣にパンを焼くという行為に向き合ったのは、生まれて初めての経験である。焼きあがるまでの2分ちょっとの間にパンに関する様々なことを考えてしまう。鍋や包丁などの調理器具を手に料理しているのならば、手を動かすことに集中して余計なことは考えている暇もない。でも、トースターの前のぼくはただパンが焼けるのを眺めているだけ。ぼくがいくら難しそうな顔をしたってパンの焼き加減にはこれっぽっちも影響がない。だから、ついつい余計なことを考えてしまう。
 多くの人が食パンをトーストして食べるだろう。温めた方が食感も軽くなるし、小麦の味や香りも強く感じられる。どう考えても食パンはトーストして食べることを前提に作られた食品だ。切った食パンを焼くことに抵抗がある人なんていないだろう。
 ここで食パンの立場に立って考えてみよう。食パンからするとトーストされるのは、2回目の焼きということになる。まず生地からベイクされてパンになって販売され、食卓に並ぶ際にトーストされる。口に入るまでに2度も焼かれているのだ。トースターのように専用の機械まで作られている。誰もが当然のように2度焼いている。食パンの他に2度も焼かれる食品なんてあるだろうか?
 世界の様々な主食を考えてみよう。アジアの主食である米だって1度火を通すだけだ。炒飯は炊いてから焼いていると言えるが、炒飯は米の一般的な食べ方とは言い難い。世界中にはパスタやうどん、ラーメンなど様々な小麦麺がある。だが、どれも同じように1度茹でるだけである。小麦以外にも麺には、蕎麦やフォーなど様々なものがある。そのどれもが、1度火を通すだけである。芋類は、焼き時間を短くするために下準備として蒸すことがあるが、蒸した芋が流通することはない。
 オーブンや窯で焼かれる、つまり英語ではベイクと呼ばれる小麦料理はパンの他にもたくさんある。クッキーやケーキ、パイ料理なんかがそれにあたる。もしかしたら、ピザもそうなのかもしれない。でも、一度完成したものを切り分けてもう一度焼くなんて話は聞いたことがない。冷めたピザを電子レンジで温めるのとは訳が違う。
 2度焼かれるという視点で考えてみると、食パンというのはとても奇妙で手間のかかる食べられ方をしている不思議な食品に見えてくる。