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年越しは勝ち越しで

by 唐草 [2019/01/01]



 2018年12月31日午後11時48分。それは騒がしい世間もどことなく厳かな空気をまとう稀有な時間である。ごく普通の住宅街にある我が家も、寒さだけではない静けさに包まれていた。あと少しで新年を迎えようとしていたちょうどその時、ぼくは戦っていた。2018年最後の負けられない戦いである。
 ことの始まりは、約30分前にさかのぼる。数年ぶりにカラクサラボに置いてある『四川省』で遊び始めてしまったのだ。なんでこんなゲームで遊び始めてしまったのか?
 我が家は今年もお正月感ゼロである。お正月飾りもなければおせち料理もない。夕飯だって年越し蕎麦ではなく、2年連続でコロッケだった。信仰心も希薄なので初詣にも行かない。そんなぼくだけれども、『Fallout 76』でグールどもをショットガンで粉砕している年越しはあまりにも冴えないなと思ってコントローラーを置いた。これが発端である。
 そして思った。「どんなゲームで遊びながらの年越しがふさわしいのだろう?」と。
 ふと思いついてしまったのだ。「自分で作ったゲームで遊びながらの年越しはステキじゃないか」と。
 とは言え、手元にあるタブレットでFlashは動かない。だから必然的に『四川省』を選ぶことになった。
 初めの3ゲームは数年のブランクを感じさせない差し手で快勝した。だが、続く3ゲームは初めの配置が悪かったせいもあり連続して手詰まりとなった。この時の時刻が午後11時48分である。
 このまま連敗が続いたら2018年は負けて終わった1年という印象になってしまう。そんなイヤな考えが、ベットリした汚れたオイルのようにぼくの頭にまとわりついてきた。過程がどうであれ最後の最後を負けで終わるのは避けたい。とは言え、この泥沼の連敗ペースでは最悪のパターンが現実になってしまう可能性がある。残り12分で何ゲームできるだろうか?2ゲームぐらい?
 もう、ここからのゲームはお気楽な時間つぶしの麻雀ソリティアではない。2018年の締めくくりを賭けた絶対に負けられない戦いなのである。最後は、絶対に勝ちで締めくくってやる。華麗な勝利でなくても良い。泥にまみれた鈍くさい勝利でもかまわない。ただひたすらに、そして貪欲に勝ちにこだわりたい。
 年の瀬という事実が、俄然ぼくのやる気を奮い立たせた。もうこれは自分との戦いである。刻一刻と終わりの時が近づいてくる。すべては初期配置の運にかかっている。その運を引き寄せられなければ負けである。
 2018年の365日の積み重ねは、数分間の小さなゲームにすべて託されたのである。ここまで真剣にゲームに取り組んだことはあっただろうか?負けたら、ぼくの2019年は始まらない。
 数分後、ぼくは燃え尽きていた。遠くから除夜の鐘の音が聞こえる。勝利を求める精神は情熱か?はたまた煩悩か?今のぼくには意味深く聞こえる。
 何はともあれ、この挨拶ができることを喜ぼう。
 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。