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カラスとクルミ

by 唐草 [2019/12/19]



 駐車場に1羽のカラスがいた。遠くからだと黒く大きなくちばしで地面を突いているようにも見える。暖かい季節なら土をほじくって虫を探すこともあるだろう。でも、今は虫の気配すらない冬だし、なによりカラスがいるのはコンクリートで覆われた駐車場である。
 少し近づいてつぶさに観察すると土をほじくているのではなかった。足とくちばしを器用に使って小さなものをいじくり回していた。いったい何をいじっているのだろう?カラスは好奇心の強い生き物だし、頭もいい。たぶん猫より賢いだろう。そんなカラスたちは、生きるため以外の行動もとる。お宝を集めたり、動くもので遊んだりといった小さな子供のような行動すらとる。以前、風で転がる小さなフタを追いかけては元の位置まで運ぶという無意味な行動をしているカラスを見たことがある。その姿からは壊れた機械のような無為さは感じられなかった。まるでフリスビーを追う犬のように楽しげに見えた。
 だからこのカラスたちも、カラス的お宝で遊んでいるものだと考えた。
 暇なぼくは、カラスが逃げない距離でしばらく観察を続けていた。突然おもちゃらしきものを咥えて空高く舞い上がった。すると一点急降下。十分に速度に載ったタイミングで口元の小さな物を放した。口から放たれたものは、カツンと硬い音を立てて地面に打ち付けられた。一方のカラスはふわっと穏やかな曲線を描いてゆっくりと落ちたもののそばに舞い降りた。
 カラスは遊んでいたのではなかったようだ。クルミのような堅い実を割ろうと四苦八苦していて、くちばしでは埒が明かないと判断するやいなや上空から実を地面に叩き落とす作戦に切り替えたようだった。ただ地面に落とすだけではなく、自身の加速を加えて落としているところに知性を感じられる。とてもおもしろいものを見た。
 ひょっとして駐車場で堅い実と格闘していたのは、車に割ってもらおうという魂胆があったのだろうか?テレビで車を活用するカラスを見たことがある。この付近のカラスも車を利用するすべを学んでいても不思議はない。
 カラスの苦戦をかいがいしく思ったぼくは、おこがましくも援助の手を差し伸べようと考えた。だが、そんな好意がカラスに通じるはずもなかった。人の接近に気がついたカラスは、実を咥えて高い屋根の上へと去っていってしまった。
 カラスと友情を育むのはなかなか難しいようだ。とはいえ、人を利用できるぐらい賢くなってしまったら、それはそれで厄介かもしれない。そんなことを思いながら駐車場を後にした。