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D-3

by 唐草 [2020/01/08]



 往年のテレビドラマ『刑事コロンボ』に『パイルD-3の壁』という話がある。コロンボが犯人に出し抜かれる珍しい展開の名作である。以前、NHK BSで放送した『刑事コロンボ人気ランキング』でも上位に位置していたと記憶している。
 『パイルD-3の壁』は、タイトルの通りパイルD-3を巡って話が進んでいく。パイルというのは高層ビルの基礎のこと。基礎ひとつひとつに番号が付いていて、事件の鍵となるのがD-3と名付けられたパイルなのである。ネタバレになるが、パイルD-3に死体が埋まっているのである。勘のいい人ならタイトルを目にしただけで感づくことだろう。でも、その予想が正解だからこそ一筋縄ではいかないのが『パイルD-3の壁』が名作と呼ばれる所以なのである。
 もう我慢出来ないのでオチを書いてしまおう。証拠のない完全犯罪をやってのけた建築家の犯人が、建築中のビルに死体を隠しているに違いないとコロンボは予想する。工事現場を大々的に掘り起こすが何も出てこない。なんと自身に疑いが向くことを予想していた犯人は、工事現場に死体を埋めたと思わせるように振る舞っていただけだった。そして、コロンボが死体を確認するために掘り返した穴に死体を埋め、ビルの基礎を作り上げて完全犯罪を完成させてしまう。先読みできる刑事の能力の高さを利用した犯罪なのである。
 まぁ、それでもコロンボは解決しちゃうんだけれどもね。
 さて、なんで『パイルD-3の壁』の話をしたのかと言うと、最近パイルD-3の壁をこの目で毎日見ているからである。最寄り駅に新しい地下駐輪場が完成したことは、先日書いた。その駐輪場は、自転車を駐めた場所を探しやすいように柱にアルファベットと番号が書かれている。さらにアルファベットごとに色分けまでされている。今の駐輪場らしい使いやすさに配慮したよいデザインの建築である。
 そんな素晴らしい配慮があるのに、ぼくは自分が駐めた自転車を探し回って駐輪場をさまよっている。柱の番号を覚えていられないのだ。3歩で記憶を失う鳥頭なのだ。
 そこで、ぼくは考えた。
 「印象深い番号のところに駐めれば、絶対に場所を忘れないだろう」と。
 その結果のD-3なのである。毎日、この下に死体が埋まっているとドキドキしながら駐輪場を利用している。ちょっとだけ、毎日が楽しくなった。