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ビデオノイズ

by 唐草 [2019/11/16]



 電車内の広告といえば、中吊り広告が長い歴史を築いてきた。きれいな写真や毒々しい言葉の数々が電車に揺られる人々の退屈を紛らわせてきたことだろう。その歴史も終わりを迎えようとしている。電車内広告の花形は、いまや扉の上に流れる小さな映像である。素晴らしデザインの中吊り広告を持ってしても、小窓に流れる単純な動画に勝つのは容易ではない。
 ぼくも毎日のように電車に乗っているが、ついつい映像に目が吸い寄せられてしまう。1週間同じCMが流れると分かっていても、動画に抗うことは難しい。
 見るつもりもなく見ている動画だが、今週はいつもと違っていた。ぼくの目には、動画が時々コマ落ちして一瞬だけ再生が止まるように見えたのだ。まるで通信が混雑しているときのYoutube動画のような挙動である。
 同じCMの同じ場所でコマ落ちが発生しているなら話は単純だ。制作ミスで動画が初めから壊れているだけのこと。でも、違う広告の異なる場面でコマ落ちしていたと記憶している。
 車内に流れる動画は、駅のWi-Fi回線を通して車両に転送されている。駅のWi-Fiが不調だったら、受信に失敗してコマ落ちすることもあるだろう。だが、数日間続いている問題なので、機器不調による転送エラーの可能性も低い。
 動画ファイルにも問題ないし、配信インフラにも問題がないとしたら、原因はなんだろう?
 ぼくがおかしいということしか考えられない。
 コマ落ちを認識できたぼくがSF世界の住人だったら、世界が仮想現実であることに気がついてしまった主人公の座はいただきだ。シミュレートのほころびが、コマ落ちとして世界の動きに影響しているというようなありがちなパターンである。
 世界の秘密をかけた大冒険が始まりそうな展開だが、あいにくぼくは真実を暴くような探究心を持ち合わせていない。多くのSF作品から秘密を暴いた後は崩壊した世界しか残っていないことを学んでいるからだ。自由の代償にはあまりにも大きすぎる。
 いや、SFで描かれた暗い真実の世界は、現実の秘密を暴こうとする者の好奇心を削ぐためのカモフラージュかもしれない。つまりビッグブラザーは、ビッグブラザーの存在を隠すためにビッグブラザー自身が書いたものだ。嘘を事実だと称するフェイクニュースとは逆で、真実を嘘に見せるフィクションなんだ。
 な、なんだってー。
 今日は長い時間電車に揺られて同じ動画を何度も見せられていたので、ぼくの頭の中は完全に現実逃避の妄想モードだった。