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加工女子を笑えない

by 唐草 [2018/07/03]



 身分証明書用の顔写真が必要になった。昔だったら写真屋に撮りにいくか、スピード写真機に飛び込むしか写真を得る方法は無かった。しかし、今は違うスマホのカメラでも証明写真として使える解像度の写真を簡単に撮ることができる。ケチなぼくはプロや専用機に金を払うことを拒み、自撮りで証明写真を作ることを選んだ。
 ゲットできたのは、みすぼらしく貧相で、くたびれて肌の汚いにやけたオッサンの写真だった。誰だ、こいつ?あまりにもひどい写真を目の当たりにして、ぼくは被写体が自分自身である事実を拒んでしまった。自分がイケメンだとは思ってはいないし、鏡を見る度に憂鬱になる顔立ちなのは重々承知しているが、ここまでひどいとは思ってないなかった。
 カメラは残酷な装置である。
 だが、このまま事実に打ちひしがれているぼくではない。己の虚栄心を守るためにぼくは最後の手段を持ち出した。
 写真加工アプリなんてちゃちなものじゃない、本家本元の恐ろしさを味わうことにしたのだ。そう、Photoshopの出番である。自分のPC画面に自分の顔が大写しになるのは、甚だ気分が悪い。でも、この写真で証明書が発行されたら数年このままである。ここはちょっと我慢するべきだろう。
 映りが悪いように見える原因を考える。被写体の悪さは無視だ。
 まず、照明が悪い。家で撮ったので電球色のライトに照らされ白い壁でさえオレンジ色に映っている。ぼくの顔は素面なのに赤く見えてしまう。と言うことで、赤味を抑えて肌を白っぽくする。
 照明が上からなのでメガネの影が顔に映っている。しかも目尻にかかっているのでタレ目に見えてしまっている。これが人相をより間の抜けた雰囲気にしている。修復ブラシでメガネの影を消す。
 ヒゲが青々と映っているので口元が重く見えている。これも修復ブラシでせっせと消していく。他にも肌荒れなどが映っているので、ブラシのサイズを変えながらドンドン消していく。
 修正を重ねていくごとに確実にイケメンへと近づいているのが実感できる。もっともそれは、徒歩でブラジルを目指しているような長く険しい道のりの始まりに過ぎないのだけれども…。途中からは自分の顔をいじっている感覚はなくなり、別の人をいじっているような気分になってきた。これ以上いじってしまうと証明写真にならないかもしれないので、まだまだ直したいところが山ほどあるが筆を置くことにした。
 ついに自分の顔を加工するおもしろさに気が付いてしまったかもしれない。ぼくが発見したおもしろさはピエロのメイクを描くようなおもしろさだったとは言え、おもしろいと感じたのは事実だ。もう、snowとかで顔を(そして時には空間さえも)いじっている女子のことを笑えない