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ナンホテル

by 唐草 [2018/04/16]



 駅の近くに正面玄関だけ立派なクリーム色のビルが一棟建っている。ビジネスホテルである。こんな郊外の駅でビジネスホテルを利用する客はいるのだろうか?電車の中で寝てしまい終電を逃した人ぐらいしか客はいないのではないだろうか?まったく客層を想像できないホテルである。
 ホテルの脇には、小さな駐車場がある。5台分ぐらいの狭い駐車場だ。宿泊客のためのスペースというより、納入業者の車を止めるためのスペースとしか思えないサイズである。その小さな駐車場に赤い三角コーンが3つほど置かれていた。
 三角コーンには、黒く太い文字が縦書きで並んでいた。角度のせいで、文字は右半分しか見えない。コーンには上の画像のように書かれていた。
 半分しか見えていないが、多くの文字がカタカナを構成する要素である。日本に置いてあるコーンに書かれた文字なので、日本語だと推測するのは当然である。素直に解釈すると、こう読める。
 「ナンホテレ」
 でも、これだと意味不明である。
 これ以上の解釈をするためには、周囲の情報を拾って類推する必要がある。文字の書かれたコーンがあるのは、ホテルの駐車場である。
 「ホテレ」と見える部分は、間違いなく「ホテル」だろう。「ル」の字の左半分が隠れているので「レ」と認識してしまったという簡単な誤解である。これで隠れた文字の正体がハッキリした。
 「ナンホテル」
 こうに違いない。それにしても、珍しい名前のホテルである。「ナン」の部分はいったい何を指しているのだろう。英語ではなさそうだ。「ナン」と言えば、カレーのオトモのアレしか思い浮かばない。このホテル、実はインド系だったりするのだろうか?地味な外観からは、ガネーシャの祝福に彩られた極彩色の気配は微塵も見受けられない。
 珍しい名前に首をかしげながら改めてホテルの玄関に目を向ける。自動ドアの上にある銀色のプレートにエンボス加工のような文字が掘られていた。
 "SUN HOTEL"
 確かにこう書いてあった。「サンホテル」。これがこのホテルの名前なのか。そうか「サ」の字の左半分が隠れていたのか。右側だけでも「ナ」と読むことができて、しかも何となく意味が通ってしまったので完全に回答を得たと確信していた。満足したぼくは、それ以上考えるのを止めていたようだ。実に愚かな思考である。