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傘の出番

by 唐草 [2021/04/13]



 天気予報を見ても天気がどうなるのかよく分からなかった。おそらく雨が降るだろうという予報なのだが、いつ頃からどれぐらい降るかハッキリとしていなかった。
 スーパーコンピューターのはじき出した演算結果よりも、空を見上げた方が正確なこともある。人間の可能性を信じて空模様を窺うが、いつ降ってきても不思議のない鈍い色の雲で覆われているだけ。一方、足元に目を向けてみるとアスファルトは湿った濃い色をしている。少し前まで降っていたようだ。風向き1つで曇りと雨の境目が揺らいでいるのだろう。
 こういう読みにくい天気のときは、目の前で雨が降っていないからと言って油断はできない。いつ降ってきても良いように備えるのが大人の判断。ぼくは傘を手に家を出た。
 目的地に着くまで天気が崩れることはなかった。傘はきつく巻かれたままだった。傘を持ってきたのは、慎重すぎたのだろうか?
 その後、1時間ぐらい屋内にこもっていた。そこからは外の様子を伺えない。降っているのかもしれないし、降っていないのかもしれない。しばらく天気のことを忘れて作業に取り掛かっていた。
 用事を済ませて外に出てみると天気はやってきたときと変わっていないように見えた。ところが、停まっている車をよく見ていみるとたくさんの水滴に覆われている。地面もだいぶ湿っていた。この様子からすると、ぼくが屋内にいた1時間にしとしとと降っていたようだ。
 家に帰るまでの間に天気はもった。結局、ぼくは一度も傘を差さずに済んだ。頬に雨粒を感じることさえなかった。傘は開かずじまい。やっぱり心配しすぎていたのかもしれない。今日の天気を日記帳に記すのなら、ぼくは迷わず「くもり」と書くだろう。
 ぼくは1滴も濡れなかったが、気象記録を見る限りこれは奇跡的な結果だったようだ。あとから見ると、まるで雲の切れ間の到達時刻を初めから知っていたかのような動きにさえ見える。雲を見抜くぼくの目は、スーパーコンピューターの予想を上回っていたのだろうか?それともただの偶然?