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いつまでも青い秘密

by 唐草 [2020/12/13]



 新しい畳の表面は若竹色よりも淡い緑色をしている。日本古来の表現だと青と呼ばれる範囲の色。だから、新品の畳は今でも青畳と呼ばれる。この色はイグサ本来の色なのだろう。
 新品の畳の証である青の寿命は短い。日に焼けたりして徐々に枯れ葉色に変わっていく。この変化はイグサが完全に枯れて緑を失うせいなのだろうか?天然素材をそのまま使っているから起きる色の変化なのだろう。
 青畳と枯れた畳のどちらが美しいかは意見の分かれるところだろう。新築の真新しい部屋なら青畳が収まっていたほうが美しいだろう。でも、侘び寂びを重んじる茶室だったら枯れた畳のほうが雰囲気がでる。どちらが勝っていると断言するのは無粋なのかもしれない。時の移ろいとともに変化する色を愛でる姿勢が、畳との正しい付き合い方なのかもしれない。
 とは言え、新しく畳を買うのであれば青い畳を選んでしまう。これは畳だけではなく、畳表を使ったさまざまな商品で同じことが言えるだろう。畳表を使った製品を作っている企業は、消費者のこの心理をよく理解しているはずだ。その証拠にゴザ売場を覗くと青畳色した製品しか並んでいない。
 先日、我が家のゴザを新調した。古いゴザは裏も表もすっかり枯れ色。それに対して新しいゴザは、昨日刈り取ったイグサで作ったかのように青々としていた。
 製品の好循環が維持できているから新品のイグサで編んだゴザを店頭に並べられるのだろう。ちょっとでも売れ残ってしまったらあっという間に色が変わってしまう。ゴザを含めて畳の商売って生物を扱うように繊細なんだと感心しきりだった、猫が新品のゴザの上でゲロを吐くまでは。
 ゲロを片付け、ゴザを水拭きしたら衝撃の事実が明らかになった。
 拭いた雑巾が青畳色になって、拭かれたゴザが枯れた畳の色になったのだ。これは魔術でも化学変化でもない。もっと単純な話だ。
 市販されているゴザは、いつでも新品に見えるように青畳色に着色されていた。たったそれだけの話である。
 思い起こせば店頭に並ぶすべてのゴザが一様に同じ青畳色だった。天然素材じゃこんなことできないよな。合理的な商品開発だが、なんか騙されたようなモヤモヤが残った。