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夢から覚めるとき

by 唐草 [2020/08/10]



 当然得体の知れぬ何かに襲われて大きな悲鳴をあげたところで目が覚める。恐怖が夢だったことに気がついて安堵しつつも、実際に叫んでいた自分にいわれのない不安を覚える。映画やドラマで散々使われてきたお約束の恐怖演出である。シーツを力強く握りしめていたり、頬を伝う涙のように見える冷や汗なんかがあると演出としてはより鉄板だ。
 もはやある種の様式美のように描かれる悲鳴とともに悪夢から目覚めるシーン。日本のドラマでも海外の映画でも見たことがある気がする演出なので、洋の東西を問わず通じる振る舞いなのだろう。でも、実際に叫び声をあげて悪夢から目覚めた経験のある人ってどれぐらいいるのだろうか?悪夢にうなされた経験は数えられないほどあるが、叫びながら目覚めたことは一度もない。
 叫びながら目覚めるのは、恐怖の発露として考えると少し大げさに感じられる。だが、見方を変えて大きな声の寝言だと考えると違和感が小さくなる。案外、寝言と一緒で叫んでいても自分では気がついていないだけなのかもしれない。
 今朝のぼくは、悲鳴をあげて目覚めるのにとても似た経験をすることになった。
 目覚めたとき「ふへへへへ」と気持ち悪い声を上げて笑っている自分に気がついた。よく思い出せないのだが、とてもベタな展開のコメディーのような楽しい夢を見ていた記憶がある。小さな食堂を舞台にしたシットコムにあるような場面だったことしか覚えていない。
 だが、そのおかしさは寝ているぼくが声を上げて笑ってしまうほどだったのだ。万人受けする笑いではなかったのかもしれないが、ぼくの笑いのツボを針に糸を通すような正確さで突いてきたことだけは確かである。
 一体どんな夢だったのか思い出せないのが悔やまれてならない。もし思い出せたら、なにもないところで「ぐへへ」と思い出し笑いをしてしまうことだろう。
 笑いとともに目覚めたことは、ぼくにとっては楽しい経験だった。だが、その姿を目撃した人にとっては悪夢としか思えない恐怖体験になっていただろう。笑ったのがひとりで寝ているときで良かった。