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最高の物件

by 唐草 [2020/07/31]



 4日前から庭の木に鳩がやってくるようになった。鳩が飛来するのは珍しくもない。餌台を出している冬は毎日やってきて、雀のための餌を食い尽くしていく。春先には巣作りの候補地選びでやってくる。でも、夏にやってきたのは初めてだ。
 鳩を観察していると、春先と同じ動きをしていた。葉の茂った庭木に体当りするように突っ込んでいき、その奥の枝に止まる。しばらく枝の具合を見ると満足したのか不満だったのかさっぱり分からないまま飛んでいく。だが、遠くへ飛んでいくわけではない。数分するとまた戻ってきて、ガサツな身振りで木の具合を確かめていく。
 どうやら庭の木に巣を作ろうとしているようだ。この季節に巣作りを始めるというのは妙な気もするが、ぼくにはそうとしか見えなかった。この鳩は、冬に餌を横取りしていた大食漢なあの鳩だろうか?
 うちの木は、枝ぶりや葉の茂り方は鳩好みの最高の物件なのかもしれない。しかし、狭い我が家に巣を作るのは賢い選択とは言えない。人も通るし、雨戸の開け締めで騒がしいこともある。家の中からは、猫たちが狩猟本能を剥き出しにした熱い視線を送り続けることだろう。
 ぼくとしても巣は勘弁してもらいたいと思っていた。餌台だけでもけっこうな量の糞を撒き散らされる。営巣されてしまったらその比ではない量の糞が降り注ぐことになるだろう。掃除が面倒だ。
 住人がどう思っているかなんて鳩には関係ないことだ。連日の内見の末に鳩は営巣を決意した。せっせと小枝を運んできては、器用に枝に乗せて編んでいった。1日で巣と呼ぶに相応しい塊が完成していた。ただ、木の根元を見るとかなりの量の小枝が散乱していた。器用に巣作りしているように見えたが、その実かなりの量を落としているようだ。
 作られてしまったからには仕方がない。力作の巣を落としてまで鳩を追い払おうとは思わない。渋々ながら共存を認めた。せっかく間近に巣があるのなら楽しんだほうが、お互いに幸せだろう。しばらくは地味でありふれた鳥を観察していこうと覚悟を決めた。
 ところが、今日になって事態が一変した。巣を残したまま鳩が来なくなってしまったのだ。この巣は見捨てられたのだろうか?
 はじめは鳩が来ないことを望んでいた。だから、この結果はベストなはずである。でも、正直言ってちょっと寂しい。人間とは身勝手なものだ。