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0時のアラーム

by 唐草 [2020/07/04]



 季節も進みだいぶ暑くなってきたが、それでもまだ朝から晩までクーラーの部屋にこもっていなければならないほどではない。日が沈めば涼しさが戻ってくるので、窓を開けて外気を取り込むだけで暑さを凌ぐことができる。窓を開けると入ってくるのは、気持ちの良い涼しい風だけではない。様々な音や匂いも風と共に部屋の中にズカズカと入ってくる。
 夕飯時に窓を開けていれば、匂いで近隣の家の献立事情を知ることができる。家の特定まではできないにしても、どこかの家に焼き魚やカレーが並ぼうとしていることは手にとるように分かる。各家庭ごとに毎日決まった生活のリズムがある。だから、どこかキッチンからの匂いがぼくの鼻を刺激するのも決まって同じ時間。鼻でおおよその時刻を知ることになる。
 多くの人が毎日繰り返しのように規則正しい生活を送っているので、匂いだけでなく音からも時刻を知ることができる。例えば隣家のバイクのエンジン音が聞こえれば、それが午前9時か午後8時だ。様々な音がまるで時報のように日々の暮らしの中に響いている。
 そんな規則正しい音の中で、1つだけ気になっているものがある。それが、午前0時ぴったりに裏のアパートから聞こえる呼び出し音のような音だ。「プロロロロロロン、プロロロロロロン」というような感じの少しこもった呼び出し音が静かな夜の住宅街に響き渡る。毎日正確な時間に鳴り響くので、初めは夜勤の人の目覚まし時計だろうと考えていた。でも、窓を開けるようになったことで呼び出し音が止まった後の音もよく聞こえるようになった。その音を聞いている限りどうもチャットアプリの呼び出し音というのが正解のようだ。
 0時ちょうどのアラームが鳴り止むと、必ず女性の声がかすかに聞こえてくる。何を言っているのかは分からないが、誰かと話しているように聞こえる。ちょうど混雑した駅のホームで電車を待っているときに、隣の扉の列に並ぶ人の電話声が聞こえてくるのと同じ感じだ。
 決まって0時に届く着信って一体何なんだろう?他人の会話に聞き耳を立てるのは良くないと思っていても、開け放たれた窓から勝手に飛び込んでくる音への好奇心を抑えるのは難しい。これは盗み聞きじゃないと言いながらそっと目を閉じ、かすかに聞こえる声に集中した。
 えっ、英語!?