by 唐草 [2020/06/18]
我が家の裏で工事が始まったようだ。窓から外の様子を伺っても、建物が邪魔でよく見えない。見慣れぬトラックが止まっているようだが、それだって運転席の一部が見えているに過ぎない。
見えないのにどうして工事が行われていると分かるのか?理由は簡単。とんでもなくうるさいからだ。
朝からずっとギュインギュインとモーターが力強く回って金属を削っているような激しい音が住宅街に響き渡っている。きっと鉄筋か何かの金属を切っているのだろう。工具の先から勢いよく赤い火花が飛び散るさまを簡単に想像できる。
長く暮らしていれば家が壊れたり道が崩れることだってある。生活を継続するために修繕が必要なのは、ぼくだって理解している。でも、なんの予告もなく住宅街平穏を引き裂く音に晒されると落ち着きを失ってしまう。ただの工事の音なのに、まるでぼくの集中を乱すために鳴らされているように聞こえてきてしまう。
運が悪いことに今時分は窓を開けていたい暑い時期だ。やかましい音は、遮るものなくぼくの部屋へと飛び込んできてしまう。とてもじゃないけれど、このままでは仕事にならない。どうにかして騒音からの自衛をしないと正気を失ってしまうだろう。
ぼくはまず部屋の窓を閉めた。だが、ガラス1枚では焼け石に水だった。こうなれば、もう耳栓をするしかない。ぼくは久しぶりにポリウレタン製の柔らかい耳栓を自分の耳の穴へとねじ込んだ。
耳栓と言うと音が絶たれて、まるで消音のテレビを見ているような世界になると想像している人もいるかもしれない。残念なことにそこまでの遮音効果はない。耳以外からも音の波が伝わってきてしまうので、音が小さくなるだけに過ぎない。それは、止められない目覚まし時計を布団でくるんだときのようだ。
窓を閉めたことと耳栓のあわせ技で、だいぶマシな環境がやってきた。だが、締め切ったことで部屋はどんどん暑くなる。エアコンを動かしても外気がそこまで暑くないのでぬるい風が弱々しく流れるだけ。音を避けたら不快な部屋が出来上がってしまった。
煩いのと暑いののどちらを選ぶべきか。それは、心と体の健康のどちらかを選べと迫られているのと同じである。ぼくは静けさを選んだ。
工事がオンライン授業を行っていた昨日じゃなかったのが、不幸中の幸いである。