カレンダー

2019/03
     
      

広告

Twitter

記事検索

ランダムボタン

製氷機の自爆

by 唐草 [2020/05/30]



 リビングで食事をしていたら、背後から「ポタ、ポタ」と水の滴る音が聞こえてきた。雨も降っていないし、背後に水道もない。それなの水滴の音が響いている。
 後ろにあるのは冷蔵庫だ。中のものが、なにかの拍子に倒れてしまってた可能性は大いに考えられる。箸を置いて、急いで冷蔵庫の扉を開けた。
 ぼくの心配を他所に冷蔵庫の中は普段と何も変わっていなかった。冷蔵庫の扉を開けると同時に牛乳が流れ出てくることを心配していたぼくは、ほっと胸をなでおろした。だが、安心してもいられない。いまだに水が滴る音が続いているのだから。冷蔵庫の前に立っていると音ははっきり聞こえる。音源は近いようだ。冷蔵庫の安全が確認された今、問題の発生源は冷凍庫としか考えられない。
 冷凍庫が故障してものが溶け出したせいで、水の音がしているのかもしれない。冷凍食品が全滅している可能性だってある。このまま見て見ぬ振りをして良いのならそうしたい。でも、目の前の問題を先送りにするのは愚かな判断である。冷蔵庫の扉を閉めると、ぼくはパンドラの箱を開けるかのような絶望的な気分で冷凍庫の引き戸を引っ張った。
 だが、扉はびくともしなかった。なにが起きているんだ?冷凍庫の中身が崩れて引っかかってしまったのだろうか?状況が飲み込めないが、できることは多くない。深く考えずに力いっぱい扉を引いてみた。
 するとガリガリガリという聞き慣れない音ともに扉が動いた。
 すかさず冷凍食品を手にとって確認したところ溶けてはいないようだ。でも、スーパーのアイス売り場の商品ように霜まみれになっていた。なんで密閉された冷凍庫で霜が発生しているんだ?
 冷凍庫の中に首を突っ込んで確認した。
 なんと自動製氷機が氷を作りすぎて、製氷皿に巨大な氷の塊ができていた。その塊が製氷皿を傾け水がこぼれていた。ぼくが聞いた音の正体はこれだった。でも、それで終わりじゃない。滴り落ちた水が冷凍庫の側面で凍って引き戸を接着剤のように留めていた。開けたときの異音は氷を砕く音だった。
 冷凍庫の中は水浸しならぬ氷浸しとなっていた。氷を手で取ろうとすると溶けるし、布だと溶けずに拭き取れないし意外に厄介な状態だった。片付けをしていたら「早く扉を閉めなさい」と冷凍庫が警告音を発した。誰がお前の尻拭いをしてやっているんだ。おせっかいな機能に腹が立つ。