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レトロな活気

by 唐草 [2020/05/13]



 リモートワーク大好き人間のぼくは、このまま穴蔵のような自室にこもってすべてを片付けたいと心から願っている。あいにくその願いが叶うことはないようだ。手元の現金が尽きてしまって、にっちもさっちもいかない状態に陥ってしまったのだ。
 無い袖は振れない。このままでは日々の生活が立ち行かなくなる。ジャンクなお菓子が大好きなぼくが、霞を食って生きていけるはずもない。背は腹に変えられぬということで、2ヶ月ぶりに銀行へ行く覚悟を決めたのであった。
 駅前の銀行へ向かったのは、お昼少し前のことだった。こんな時間の街を歩くのは久しぶりだ。自粛続きの街はどんな雰囲気になっているのだろうか?街へと繰り出すぼくの心に浮かんだのは、ウイルスへの恐怖ではなく、街の様子への好奇心だった。
 新宿や渋谷などの繁華街は、大幅に人出が減ったと報じられていた。でも、この数字の変化は地方からの観光客が途絶えた影響が大きいだろう。ぼくが向かっている駅なんて、いつだって付近に住む通勤客と買い物客しかいない。だから、普段とあまり変わらないのではないだろうか?それとも、駅ビル休業の影響が暗い影を落として街は静かに沈んでいるのだろうか?
 駅周辺の様子は、ぼくの想像とは全然違っていた。
 驚いたことに、バス通りは自粛前より賑やかだった。夜の営業をメインとしていた飲食店がこぞって弁当販売の呼び込みをしていたからだ。そのおかげで、古い雑居ビルが狭そうに肩を寄せあっている通りには、元気の良い声があちこちで響き渡っていた。その賑わいは、なんだかぼくに懐かしさを感じさせた。
 いったいなにがぼくの心の底に眠っている古い記憶を刺激したのだろう?少し立ち止まって目を閉じた。
 頭に浮かんだのは、今はシャッター通りとなって久しい近所の商店街の在りし日の姿だった。通りに響き渡る「いらっしゃいませー」という大きな呼び込みの声が、威勢の良かった魚屋を思い起こさせたようだった。
 再開発を重ねただひたすらに高効率化を求めて進んできた街で、20世紀の空気を感じることがあるなんて夢にも思わなかった。コロナの猛威が洗練された仕組みを破壊した結果の活気とは、なんとも皮肉である。