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窓と戦う

by 唐草 [2020/05/11]



 築40年を超える我が家は歪んでいる。決定的な出来事が大きな歪を生み出したというわけではない。震災の揺れ、基礎を割った木の根、50年前の埋立跡の陥没など毎日の暮らしの中で起きてきた出来事の積み重ねの結果である。幸い今のところ床に置いたビー玉が勢いよく転がる欠陥住宅のような歪みは現れていない。もっぱら自宅の歪みを感じるのは、リビングの大きな窓を開け閉めするときだけである。
 アルミサッシを開ける音をオノマトペを使って表すのならどんな言葉を選ぶだろうか?新しいサッシなら「スー」という静かで滑から音がふさわしい。おばあちゃんちにあるサッシだと「ガラガラガラ」という音になる。我が家の歪んだサッシが立てる音はどちらでもない。「ジョリジョリ」と「ガガガ」を足した耳障りな音を響かせるのだ。
 これはサッシとレールの金属が擦れて削れる音。サッシのレールを拭くと砂鉄より細かい金属の粉が散らばっているのが分かる。家の歪みが窓枠をひしゃげさせた結果である。
 こうなってしまうと窓の開閉は重労働だ。渾身の力を込めないと窓は動かないが、力を入れすぎてしまうとガラスが割れる。屈強な紳士のように力強さと丁寧さを同時に満たさなければならない。
 今日ぐらいの夏日になると窓は膨張して意地でも張っているかと疑いたくなるほど動かなくなる。そんな強情な姿勢に対して温和なぼくも拳を振り上げてしまった。
 これがいけなかった。
 ぼくの拳は、会心の一撃となってサッシをあらぬ方向へと押してしまった。その結果、レールとの隙間がなく動かすことも困難だった窓ガラスがレールの上に乗り上げてしまったのだ。ありえないだろうこんなこと。ぼくは目の前の手品のような現実を受け入れることができなかった。
 どうにかして戻そうとするも隙間すら無い。逆方向から叩いても手の力だけではびくともしない。マイナスドライバーを取り出してテコの原理を利用して挑むも微動だにしない。それどころかドライバーが歪んでしまった。ぼくがいくら力を込めても、額に汗が流れるばかりで何も進まなかった。このまま、一生窓を閉められないのではないかと途方に暮れそうにさえなった。
 最終的にアルミサッシの仕組みをググってサッシの下の車輪を外すことで事なきを得た。
 本当に会心の一撃ってあるんだなと実感したひとときだった。