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消えるリモコンの謎

by 唐草 [2020/05/07]



 ズボラな人間が、自身の部屋が片付いていないのを冗談めかして小人やら妖怪のせいにすることがある。長年に渡って八百万の神と妖怪が跋扈すると信じてきた文化の中に生きていると、本人が気が付かないうちに部屋を荒らす物怪が本当にいても不思議でないように思える。もっともそんな妖怪が実在するとしたら、それは本人自身だということになるだろうけど。
 ぼくの部屋は、身贔屓な判断だとは思うけれどそれなりに秩序を保っている。断捨離の魔物に取り憑かれたミニマリストの部屋のように何もないというわけでもないし、雑誌に掲載されているようなスッキリとした部屋でもない。パッと見ただけだと物が多いように感じる人もいるかも知れない。でも、ぼくが何かを探して自室をウロウロ彷徨うことはない。
 ぼくの寝室兼仕事場である部屋は、自然発生した都市のような構造である。必要なものが使いやすい位置に配置されている。見た目より合理性を選択し続けてたどり着いた1つの極地である。例えて言うならば、大量のスイッチや計器が並ぶ飛行機のコックピットのようなものだ。だから、ルールを知らない人には雑然として見えてしまうかもしれない。だが、猫とぼく以外だれも入らない部屋で人の目を気にするなんて無意味なことである。
 そんなぼくの部屋に1つだけ秩序を破る存在がある。
 それがテレビのリモコンである。
 どういう訳かテレビのリモコンだけは、日に何度も姿をくらますことがある。「さて、ゲームで遊ぶか」と思ってテレビをつけようとしてもリモコンが見つからない。「じゃあ、ゲームを止めて寝るか」と思って手を伸ばすも意図した場所にリモコンがない。必要な時に必要なものが適切な場所にあることだけを考えた部屋だと言うのに、必要な時にすぐに見つかった試しがない。
 そのたびにぼくは、バタバタと部屋の中を引っ掻き回してリモコンを探すことになる。ある時はベッドの布団の中にリモコンが埋もれていた。別の時は本棚にリモコンが収まっていた。こんな具合に予想もしない場所からリモコンが出てくることが日常茶飯事だ。
 ゲームを始めるときのぼくが無意識にリモコンを置いているのが、所在不明になる原因なのだろう。それにしても見つかる場所が理解を超えていることが多い。こんな現実に直面すると、ついつい超常の存在を想像してしまうのである。