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ウナギ道場

by 唐草 [2020/04/26]



 ここのところ夜9時過ぎに近所を散歩することが増えている。散歩の目的は、運動不足解消と気分転換の両方。いくら引きこもり適正が高めのぼくでも、1週間部屋に閉じこもっているのは無理だ。どうしても外に出たくなってしまう。普段だったら自転車の跨って颯爽と街を駆け抜けるところだが、自粛と保身の両方から散歩で妥協している次第だ。
 こんなご時世なので、ただの散歩なのに遅い時間だし、人目と人気を避けたルートを選んでしまう。その結果、長く住んでいる街の知らなかった一面を見出すことができた。太陽に明るく照らされた町並みとLED街灯がスポットライトのようにピンポイントで照らす町並みは、まったく違って見える。まして通り慣れていない道だと、まるで初めて通るかのような錯覚に陥ることもある。おかげで近所の散歩なのに小さな驚きにあふれている。
 1つの看板が、夜の道を歩くぼくの目に留まった。一枚板の立派な看板で、黒く太い文字で「合気道道場」と書かれていた。
 近所に合気道の道場があることなんてまったく知らなかった。だから、道場を見つけたことに驚きもした。でも、道場の門構えを眺めると発見の驚きをかき消すほどの疑問が浮かんできたのだ。
 どう見ても普通の住宅にしか見えないのだ。それも、狭い土地を活用して建てられた狭小住宅のような間口なのだ。玄関の扉4つ分ぐらいの幅しか無いだろう。どう見てもウナギの寝床のように細長い建物だった。建物を囲う柵を見る限り、奥に広大なスペースがありそうな感じもしない。
 一般的に道場と言えば、柔道場か体育館のように広い部屋を有しているイメージがある。でも、ぼくの目の前にあった道場には、絶対にそんな広いスペースが収まっていない。投げ技を繰り出したら相手は壁に叩きつけられてしまうのではないかと心配になってしまう。
 合気道という武術のことは全然わからないが、柔道や剣道などと違って狭いスペースで稽古ができるのだろうか?それとも、門下生が一列にズラッと並んで百人組手でもやっているのだろうか?はたまた地下に秘密の道場があるというのだろうか?
 細長いウナギの寝床のような道場では、いったい誰が何をしているのだろうか?人々の営みが見えない夜だから、ちょっとした疑問が妄想を大いに膨らませてくれる。