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静かな夜に

by 唐草 [2020/04/12]



 このまま引きこもりのように自宅にこもっていれば、コロナウィルスの脅威から逃げ切れるのでは無いだろうか?ゾンビ映画なんかでも真っ先に命を落とすのは「こんなところに閉じこもってなんていられない!」と不満を口に無駄な積極性を発揮して動いてしまうタイプだ。籠城戦は地味かもしれないが、積極的に倒すことのできない相手と戦う場合には有効な戦術だという教えである。
 そう分かっていても、やはり狭い自宅にこもりっきりというのは不健康に感じる。在宅勤務に喜んでいるぼくでさえ、ほとんど体を動かしていないことに不安を感じている。ぼくはすでに2週間に渡って自転車に乗っていない。そのせいで、足の筋肉が落ちているのを実感しているし、脚は細くなっているのだろう。危険な病と日々の健康を比べるのはアンバランスかもしれないが、どちらも疎かにはできない。
 2日に一度300mぐらい離れたスーパーマーケットに行くだけの生活を続けていたら体はドンドン衰えていってしまうだろう。籠城戦でコロナの猛威を乗り切れたとしても、歩くのがやっとというぐらいに筋肉がやせ細ってしまっていたら素直に勝利を喜べない。
 だから、ぼくは3日に一度ぐらいのペースで夜の街に散歩へと繰り出している。
 夜になれば我が家周辺にいる者は、家路を急ぐ自転車とジョギングに汗を流す人ぐらいになる。聞こえるのは幹線道路を走る大型車の音ぐらいだ。
 昨晩は雨上がりの直後だったせいかもしれないが、家を一歩出ただけで街の違いがひしひしと伝わってきた。緊急事態宣言が出てから街は静かになっていたが、昨晩はこれまでとはまったく異なっていた。
 音がしないのだ。
 まだ21時を少し回ったぐらいだというのに、歩く人もいなければ幹線道路を走る車の影もない。街が静寂に包まれていた。この静けさは、多くの人が帰省した年末年始の夜に似ている。人の気配が感じられないのだ。静けさが年の瀬を思わせるが、春の暖かさが残る風に包めれているのは妙な気分だった。
 ぼくは静けさに怯むことなく散歩へと出たが、人の影は1度しか見なかった。道路は信号が誰にも見られないシグナルを灯しているだけだった。
 自粛要請は劇的に効果を発揮している。おかげで他人を見て疑心暗鬼になることなく、快適に夜の散歩を楽しむことができた。