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疑惑の歯科治療

by 唐草 [2020/03/05]



 1月末に受けた歯科検診で2箇所の治療を勧められた。なんの自覚症状もなかったので晴天の霹靂だった。歯科医が無知な患者を利用して悪どく儲けてやろうと考えているのではないかと訝ったほどである。それでも鏡を使って患部を見せられると、そこには健康な白い歯のイメージとは違うものが映っていた。観念して処置を受けることにしたのである。
 先月は奥歯の詰物の補強を行った。痛みがあるわけでもないし、自分の歯ですらないものの補修なので、治療には歯科治療独特の我慢がなかった。胸の内にあったのは、歯科治療用ハイテクマシンを見てみたいという好奇心だけだった。しかし、その好奇心が満たされることはなかった。治療中に薄目を開けても歯科医の腕しか見えなかったからである。
 昨日が2回目の治療だった。今度は、前歯の歯茎が痩せてしまったことを治す治療だと説明されていた。鏡越しの自分の前歯に問題は無いように見えた。でも、治療用の金属棒で歯茎を押すと、歯茎に隠れている歯の根元が茶色くなっているのが確認できた。どうやら歯ブラシが届かない特大の歯槽ポケットが出てきて、コーヒーのシミがこびりついているようだった。なんらかの処置が必要そうなのは素人目にも明らかだった。
 ただ、やはり痛くも痒くもない。虫歯になる前に処置を施す予防歯科の必要性は頭では理解しているつもりでも、一見健康そうな歯をいじくり回すことには抵抗があるのも事実だ。
 なにより気になっているのが、歯茎の痩せを治すという聞き慣れない説明である。固い歯ではなく肉感あふれる歯茎をどういじるのだろうか?ゴムでも詰めるのか?ぼくの乏しい歯科知識では、これから自分が受ける処置を想像することができなかった。普段の歯科治療では訪れるであろう痛みを想像して恐怖することも少なくない。でも、今回は違う。得体のしれない行為への恐怖がぼくを包み込んでいるのである。
 ぼくの不安は杞憂に終わった。直接歯茎に処置を施すことはなかった。歯茎と歯の境に詰物と同じ樹脂を塗って隙間を埋めるだけで痛くも痒くもなかった。
 一晩開けた今日も、患部が痛むことはなかった。舌で処置したところを舐めても何も感じない。鏡を見ても治療痕が確認できない。本当にぼくは昨日歯科医を訪れて処置を受けてきたのだろうか?そのことすらも信じられなくなるほど何も変わっていないのである。