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ハイドロプレーニング人間

by 唐草 [2020/01/29]



 雪が降ったかと思えば、春の風が吹く。エクストリーム三寒四温とでも呼びたくなる変化の激しい天気の変化が街を襲う。今朝も季節外れな朝を迎えていた。
 今朝の駅は、およそこの1月らしからぬ南からの強い雨でホームの中ほどまで濡れていた。その光景は、乾燥にあえぐ例年とは全く違っていた。陽の光を浴びて輝く駅のタイルは、どことなく春を思わせる雰囲気さえあった。
 そんな春らしい陽気に浮かれていたわけではないのだが、ホームを歩いているときに2度も足を滑らせてしまった。幸いにも転んで尻もちをつくようなことはなかった。濡れたホームのタイルは、まるで氷を思わせるほどに安定感がなかった。歩こうと足を踏み出しても、足を着こうと地面を踏みしめても、ツルツルと滑るのだ。
 1回目に足を滑らせたときは偶然滑っただけだろうとしか思わなかった。でも、数歩後にもう一度足を滑らせたときに確信した。ここの地面はヤバイと。
 だから今朝のぼくはペンギンのように小さな歩幅でよちよちと歩いていた。この歩き方なら真冬の北海道だって踏破できるだろう。
 いくら建物の美観のためとはいえ、こんなにも滑りやすいタイルを使うのはいかがなものだろうか?ぼくはなんとか踏みとどまれたけれど、もう少し足腰が弱っていたら大転倒していたかもしれない。
 ところが、周りを見回しても老若男女誰もが普通に歩いていた。むしろぼくの歩き方が場違いで、動物園から逃げ出した可愛くないペンギンのようだった。
 なんで、みんな滑らないの?そうじゃない、逆だ。ぼくだけ滑ってるんだ。日記でも滑り、会話でも滑り、終いには歩いていてもひとり場違いに滑っている。いったいぼくの何が悪いんだろう?
 よちよち歩きのままどうにか電車へと滑り込んだぼくは、空いている車両の中で片足を持ち上げ靴の裏に目をやった。そこにはあるべきものが何もなかった。磨かれたようにフラットなゴムが広がっているだけだった。
 靴の裏の溝が完全に消え失せていた。もうどんな溝が刻まれていたのか想像することもできないほどに平らだった。まるでF1のタイヤのようだった。
 これじゃ滑って当然だ。ハイドロプレーニング現象が起きていたんじゃ仕方ない。